ボクと彼を繋ぐ電子媒体
ここ二週間、黄瀬君からのメールがない。
些細な日常がほとんどの特に用事も書かれていないメールだけれど、その一通一通が楽しみなのは黄瀬君に内緒。
部活にモデルに忙しい彼のことだからメールが送れない日だってある。
それでも、三日空けたことはなかった。
それが今回は二週間・・・。
僕から何回かメールをしてみてもその一つ一つにも返事はない。
(やはり仕事と部活で忙しいのでしょうか・・・)
携帯電話を握りしめ、新着通知のない受信ボックスを開きながらため息を吐く。
「何ため息吐いてんだよ」
昼休みの教室。
ボクの前の席に座っていた火神君がパンをリスのように頬張りながら話しかけてくる。
「・・・ここ二週間ほど黄瀬君からメールが来ないもので・・・」
「は?二週間くらい普通じゃねーか」
確かに普通の男子ならそれくらい普通のことだろう。
ボクだって誰かにメールを送るのは何か用事があるときくらいだからあまり頻繁にメールはしない。
しかし黄瀬君は毎日僕にメールを送ってくるのだ。
返事は返せるときだけ返してくれればいいから、と。
「中学のときから三日空けたことないんです、黄瀬君からのメール。もう、ほぼ生活の一部みたいになっていて二週間も来ないのが逆に気になってしまって・・・」
「三日空けず・・・・・・だったら電話すりゃいいじゃねーか。その方がはえーだろ」
確かにそうだ。
しかしボクにはそれができない。
何故なら―――
「知りません」
「・・・は?」
「ボク黄瀬君の電話番号知らないんです。というよりキセキの世代全員の電話番号を知りません」
マジかよ!!と驚く火神君。
無理もない。
中学時代から皆知っているのにボクは彼らの電話番号を知らない。
それは僕自信がメール以上に電話が苦手なことと、今までメールだけでどうにかなっていたから。
だから電話番号を聞くこともなく今に至ってしまっているのだ。
「じゃあ緑間とかにメールで教えてもらえよ」
「それもダメです」
「・・・まさか緑間も電話番号知らないのか?」
「緑間君は黄瀬君の電話番号知ってますよ。そうじゃなくて、教えてもらってもボクが使えないんです」
「どういうことだ?」
ますます意味がわからないという顔をする火神君。
「彼は知らない番号からの電話を全部拒否してるんです」
これは黄瀬君の職業柄仕方のないこと。
一度ファンの子がどこからか黄瀬君の番号を探し出して執拗に電話がかかってきたことがあった。
それ以来、彼は自分が直接番号を交換した相手以外着信を拒否するようになった。
「だからボクの番号を知らない黄瀬君の携帯にかけても拒否されてしまうんです」
「ふーん・・・モデルってのはメンドーなんだな」
キーンコーンカーンコーン・・・
話しているうちに予鈴が鳴り、その話はそこで終わった。
「お疲れっす」
「お疲れさまでした」
今日の練習を終え、ボクは火神君と一緒に部室を出た。
いつものようにマジバに寄ってから方向が別のところで別れる。
駅に向かって歩いていると携帯の着信音が鳴っていることに気づきポケットから携帯を取り出す。
送り主を知らせる小窓には黄瀬涼太の表示。
ボクはすぐさま内容を確認した。
返信できなくてゴメンネ(; >A<)!
突然だけどこれから会えないっスか(・ω・)?
二週間ぶりの黄瀬君からのメールはいつもとは違って短い文章だった。
それでも彼からのメールはとても嬉しい。
すぐに
いいですよ。
今どこでますか?
と返信をする。
数秒後すぐに黄瀬君から返事が来た。
駅の近くにいるということで改札の近くで会う約束をしてボクは駅に向かった。
駅に着き黄瀬君を探す。
「黒子っち!こっちっス!」
「黄瀬君」
呼ばれた方を振り返る。
そこには手を振ってこっちにくる黄瀬君。
「ひさしぶりっス黒子っち!」
「お久しぶりです、黄瀬君」
「メール返せなくてスイマセン!実は海外に行ってたんス」
「海外、ですか?」
黄瀬君の話によると、1ヶ月後に予定していた海外での撮影が早まってしまったそうだ。
撮影先に着いても分単位のスケジュールで休む暇もなかったとその表情からも疲れが見て取れる。
話し込んでいるうちに帰る方向の電車がきたので一緒に乗る。
それからこの二週間分の送れなかったメール分話す勢いで黄瀬君の話が尽きることはなかった。
電車を降りてお互いの家の同じ方向まで歩く。
「それじゃ黒子っち、今日は会えて嬉しかったっス!」
「黄瀬君!」
手を振って去ろうとする黄瀬君を引き留める。
「何スか?黒子っち」
突然の引き留めにきょとんとしながらボクを見下ろす。
「ボク、黄瀬君が毎日メールを送ってきてたせいで3日以上メールが来なくなるとすごく気になるんです」
「え・・・?」
「ボクから連絡入れようにもメールしかできなくてどうしようもなくて・・・。だから・・・」
―――電話番号、教えてください
[ 3/4 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]