卒業ですね



さて、貴方達は今日で卒業です。
新しい旅立ちに向かって頑張って下さい。

……なんて急に言われても実感が湧くはずが無い。
確かに左手には大層なカバーに包まれた卒業証書が収まっていて、存外涙腺が弱い僕は代表者が読む答辞に涙ぐむどころか、がっつり泣いたりもしたのだけれど。

今日からもうこの場には来ないなんて、皆と顔を合わせないだなんて、そんなのは嘘だろう?
そう思う自分が居ることも確かで。

きちんと結べるようになったネクタイも、身体に馴染んだブレザーも、履き潰した上履きも、色んなものを詰め込みすぎてファスナーが壊れかけてるスクールバッグも、今日から身につける事は無いのだ。

Time and tide wait for no man.
光陰矢の如し。

全くその通りだと思う。
考えられない早さで三年間は過ぎて行った。
楽しい事も、悲しい事も、沢山あったけれど楽しい事の方が多かったと、僕は胸を張って言える。
だけど三年間分の感謝や喜びを語るには、僕の言葉は拙すぎた。

楽しかった、嬉しかった、幸せだった、大好きだった。
そんな言葉では言い表せない程キラキラした思い出を両手一杯に抱えた僕は、それを上手く言葉に変換出来ずに心に刻み込むのだろう。

僕は語彙に乏しい人間であるし、気の利いた事を言える奴でも無い。
妙なところで頑固で、我ながら面倒な人間であるとも思う。

それでも僕を受け入れてくれた高校の皆に最大限の感謝を。
いつも僕の帰る場所であってくれた家族に最大限の感謝を。
そして僕が愛した学校に、最大限の感謝を。

朝、おはようと挨拶してくれる笑顔はもうない。
昼、一緒に馬鹿騒ぎしながら弁当を食べる事はもうない。
放課後、駅までの短い距離を並んで歩く事はもうない。

高校生活が終わるのが寂しい。
皆に会えなくなるのが寂しい。
かの有名な哲学者、ニーチェは言った。

「いま、私はひとりで行く。
あなた方もいまは別れてひとりで行きなさい」

今日僕らは卒業して、それから別々の道を行くのだろう。
だけど僕は、一人であっても独りで無いと信じる。
疲れたら止まればいい。
辛かったら泣けばいい。
それを受け入れてくれる場所を、僕らはこの三年の間に得る事が出来たはずだから。

どうか自分は皆に何もしていないだなんて、言わないで欲しい。
君に支えられ、助けられた人が、ここにいる。
そのことを、どうか忘れないで欲しい。

皆様のこれからの旅路に、幸多からん事を。
いつの日かの再会を誓って。



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