hp長編「牙の預言者」三番目 | ナノ


▼ ☆11-5


牙の預言者
11.暴かれた罪 5


(Side: Harry)

「くそったれの、あほんだらの、裏切り者め!」

 ハグリッドの罵声が、バーの中に響いた。マクゴナガル先生が咄嗟に「シーッ!」と合図したが、近くに座っていた客が何人か、びっくりして足から跳ねあがっているのが見えた。

「おれはやつに会ったんだ」

 ハグリッドはギリギリと歯噛みをした。

「やつに最後に出会ったのはおれにちげえねぇ。ジェームズとリリーが殺されちまったとき、あの家からハリーを助け出したのはおれだ! 崩れた家からすぐにハリーを連れ出した。かわいそうなちっちゃなハリー。額におっきな傷をうけて、両親(ふたおや)は死んじまって……そんで、シリウス・ブラックが現れた。いつもの空飛ぶオートバイに乗って。あそこになんの用できたんだか、おれには思いもつかんかった。やつがリリーとジェームズの『秘密の守人』とは知らんかった。『例のあの人』の襲撃の知らせを聞きつけて、なにかできることはねえかと駆けつけてきたんだと思った。やつめ、真っ青になって震えとったわ。そんで、おれが何したと思うか? おれは殺人者の裏切り者を慰めたんだ!」

 ハグリッドが吠えた。

「やつがジェームズとリリーが死んだことで取り乱してたんではねえんだと、おれにわかるはずがあったか? やつが気にしてたんは、『例のあの人』だったんだ! ほんでもって、やつが言うには『ハリーを僕に渡してくれ。僕が名付け親だ。僕が育てる――』……へん! おれにはダンブルドアからのお言いつけがあった。そんで、ブラックに言ってやった。『だめだ。ダンブルドアがハリーはおじとおばのところに行くんだって言いなさった』ってな。ブラックはごちゃごちゃ言うとったが、結局あきらめた。ハリーを届けるのに自分のオートバイを使えって、おれにそう言った。『僕にはもう必要がないだろう』って、そう言ったな……」

 ハグリッドは、語気を強めていた言葉を段々と小さくさせていく。

「なんかおかしいと、そんときに気付くべきだった。やつはあのオートバイが気に入っとった。それをなんで、おれにくれる? もう必要がないだろうって、なんでだ? つまり、あれは目立ちすぎるっちゅうことだ。ダンブルドアはやつがポッターの『秘密の守人』だということを知ってなさる。ブラックはあの晩のうちにトンズラしなきゃなんねえってわかってた。魔法省が追っかけてくるのも時間の問題だと、やつは知ってたんだ……もし、おれがハリーをやつに渡してたらどうなってた? えっ? 海のど真ん中あたりまで飛んだところで、ハリーをバイクから放り出したにちげえねえ。無二の親友の息子をだ! 闇の陣営に与した魔法使いにとっちゃ、だれだろうが、なんだろうが、もう関係ねえんだ……」

 ハグリッドの話の後は、長い沈黙が続いた。それから、マダム・ロスメルタがやや満足げに言った。

「でも、逃げおおせなかったわね? 魔法省が次の日に追い詰めたわ!」
「あぁ、魔法省だったらよかったのだが」

 ファッジが口惜し気に言った。

「やつを見付けたのは、我々ではなく、チビのピーター・ぺティグリューだった。ポッター夫妻の友人の一人だが、彼らを失った悲しみで頭がおかしくなったのだろう、たぶんな。ブラックがポッターの『秘密の守人』だと知っていたぺティグリューは、自らブラックを追った」
「ぺティグリュー……ホグワーツにいた頃は、いつも二人の後にくっついていた、あの肥った小さな男の子かしら?」

 マダム・ロスメルタが聞いた。マクゴナガルは、「ブラックとポッターのことを、英雄のように崇めていた子でした」と、静かに告げた。

「能力から言って、あの二人の仲間になりえない子です。私、あの子にはときに厳しく当たってしまいましたわ。私がいま、どんなにそれを――どんなに悔いているか……」

 急に鼻かぜをひいたような声になったマクゴナガルに、ファッジが「さあ、さあ、ミネルバ」と声をかけていた。

「ぺティグリューは英雄として死んだ。目撃者の証言では――もちろんこのマグル達の記憶はあとで消しておいたがね――ぺティグリューはブラックを追い詰めた。泣きながら、『リリーとジェームズが。シリウス! よくもそんなことを!』と言っていたそうだ。それから杖を取り出そうとした。まあ、もちろん、ブラックの方が速かった。ぺティグリューは木っ端微塵に吹き飛ばされてしまった……」
「ばかな子……まぬけな子……どうしようもなく決闘がへたな子でしたわ。魔法省にお任せするべきでした」

 マクゴナガルは鼻をチンとかんだ。

「おれなら、おれがぺティグリューのチビより先にやつと対決していたら、杖なんかもたもた出さねえぞ。やつを引っこ抜いて、バラバラに、八つ裂きに――」
「ハグリッド、ばかを言うもんじゃない」

 ファッジがいさめるように言った。

「魔法警察部隊から派遣される訓練された『特殊部隊』以外は、追い詰められたブラックに太刀打ちできる者はいなかったろう。私は当時、魔法惨事部の次官だった。ブラックがあれだけの人間を殺したあとに、現場に到着した第一陣のなかにいた。私は、あの――あの光景が忘れられない。いまでも時々夢に見る。道の真ん中に深くえぐれたクレーター。底の方には亀裂の入った下水管。累々たる死体、重傷者。マグル達は悲鳴を上げていた。そして、ブラックがそこに仁王立ちしていた。笑っていた。その前にぺティグリューの残骸が……血だらけのローブとわずかの……わずかの肉片が……」

 ファッジのか細い声が途端に途切れた。鼻をかむ音が五人分聞こえた。

「ロスメルタ、そういうことなんだよ。……ブラックは魔法警察部隊が二十人がかりで連行し、ぺティグリューは勲一等マーリン勲章を授与された。哀れなお母上にとってはこれが少しは慰めになったことだろう。ブラックはそれ以来、ずっとアズカバンに収監されていた――」
「目的はいわずもがな、わかりますわ」

 マダム・ロスメルタは、今にもよよと崩れそうな声で察していると示した。

「どうやって脱獄したというのでしょうね?」
「確かに、それはきちんと精査すべきことだ。しかし、私にはまだ気がかりなことがあってね――」

 皆がファッジの言葉を待った。

「ハリーの周りを改めて調べたら、なんと、恐ろしい事に……ブラックの縁者がいるではないか」
「まさか疑っておいでですか?」

 マクゴナガルが刺すように言った。

「あの子達はとても良い友だと言えるでしょう。それに縁者だからといってシリウス・ブラックに加担するなんて到底考えられません」
「『あの子』って、誰の事ですの?」

 マダム・ロスメルタが興味有りげにきいた。少しの間の後、マクゴナガルは囁くような小声を絞りだした。

「アルノー・ヘイデン」

 言った直後、マクゴナガルは素早く咳払いした。
 アルノーの名が飛び出た瞬間、ハリーの周囲の空気はすっと冷えきった。まるで一気に心が凍ったような感覚だった。



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2018/10/23
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