hp長編「牙の預言者」三番目 | ナノ


▼ ☆11-3


牙の預言者
11.暴かれた罪 3


(Side: Harry)

 ハリーはホグズミード村に訪れていた。
 地下牢教室に向かったアルノーと別れ、城での居残りを決めた後、談話室に戻ろうと廊下を歩いていた。部屋のベッドの上に置きっぱなしになっている『かしこい箒の選び方』を読む為、寒々しい廊下を進んでいると、ハリーを脇の階段下のスペースに引きずり込む影があった。誰だ、とも声をあげる間もなかった。
 ハリーがその暗がりの中で、じたばたしていると……。

「俺だよ、フレッドと」
「ジョージさ」

 シリウス・ブラックではないことに安堵したのも束の間のことだった。ホグズミードにこれから向かうという二人は、最近落ち込み気味のハリーに素敵なプレゼントをくれた。
 それは、『忍びの地図』というものだった。その羊皮紙の切れ端のような紙は、特別な呪文を読みあげなければ、地図としての機能を発揮しない。彼らが持っているそれはホグワーツのいたずら好きらしい先人達(ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ)がこしらえたもので、ホグワーツ城にいる「誰」が「どこ」にいるのかを、ひと目で察知できる地図になっているようだ。しかも、ホグワーツからホグズミード村へ抜ける為のいくつかの抜け道をも記載してある。ハリーは、この時ほどその地図を――喉の奥から手が出る程欲しい――と願ったことはなかった。
 ジョージ、フレッドはこの地図……一見するとただの折りたたまれた羊皮紙なのだが――をフィルチの棚から拝借し、謎を解き明かし、そして今までの悪戯稼業のすべてに用いていたと自白する。しかし、二人は、今この時にハリーに譲ると決めたそうだ。ホグワーツの全てを知りつくしている自分たちではなく、ハリーに色々な思いを以って託してくれたのだ。
 彼らは最後に「ホグズミードで会おう」とにっこりと笑って、どうどうと正門からホグズミードに向かっていった。

 ハリーは興奮のあまり、幸せで頭がいっぱいになっていた。寮の部屋から『透明マント』だけを引っ掴むと、すぐに抜け道を探した。地下牢に行ったアルノーには申し訳ないが、この興奮をさますにはホグズミード村に行くほかにないと理解していた。
 フィルチが知らない唯一の安全な道、ハニーデュークスという菓子店の地下倉庫に繋がっている道をたどって、ホグズミード村へと出た。「いたずら完了」と杖先を地図に当てて呟けば、地図は刻んでいた文字(ホグワーツ城内にいるすべての人の居場所と名前と)をスーッと消していき、ただの薄汚れた羊皮紙の切れっ端となった。
 こっそりハニーデュークス店を抜けだした後、ハリーがそこでハーマイオニーとロンの二人を見付けた。
 二人はハリーとアルノーへのお土産を吟味しているようだったが、ロンが「ゴキブリゴソゴソ豆板」という不気味で食欲をそそられないにもほどがある板チョコを推したところで、さすがのハリーも「要らないよ」と声を絞り出す。二人は慌てふためいていたが、両名を落ち着かせてから、ハリーはロンとハーマイオニーに「どうしてここにいるのか」を話した。双子から地図を貰ったこと、菓子店の地下に秘密の通路が繋がっていること。アルノーは連れて来れなかったのは、何よりも残念だった――とも話した。

「でも、今度からはアルノーも連れて来れるだろ? 四人で楽しくホグズミードさ!」

 ロンはうきうきしながら、言う。ハーマイオニーは「ばかげたことを!」と毅然とロンを叱る。

「ハリーはこのまま地図を持ってたりはしないわ! マクゴナガル先生にお渡しするわよね、ハリー?」
「僕、渡さない!」

 ハリーが言うと、ロンが「気は確かかよ?」と、ハーマイオニーに向かってその目を剥いた。

「こんないいものが渡せるか?」
「もし、僕がこれを渡したら、どこで手に入れたか言わなきゃいけない。フレッドとジョージが、フィルチの『危険物』の棚からこれをちょろまかしたってこともだ。フィルチに知れてしまうじゃないか!」
「それじゃ、シリウス・ブラックのことはどうするの?」

 ハーマイオニーはいつもの真面目さで、口を尖らせた。

「この地図にある抜け道のどれかを使ってブラックが城に入り込んでいるかもしれないのよ! 先生方はそのことを知らないといけないわ!」
「ブラックが抜け道から入り込むはずはない。この地図には七つのトンネルが書いてある。いいかい? フレッドとジョージの考えでは、そのうちの四つはフィルチがもう知っている。残りは三本だ。――ひとつは崩れているから誰も通り抜けられない。もう一本は出入り口の真上に『暴れ柳』が植わってるから、出られやしない。三本目はいま、まさに、僕が通って来た道――うん、出入り口はこの店の地下室にあって、なかなか見つかりゃしない――出入り口がそこにあるってしってれば別だけど――」

 ハリーは一瞬、この道を知っていたらどうする?――と、心の中に迷いのような気持ちが生じるのを感じた。ハリーが口籠ったあと、ロンは意味ありげに咳払いした。そして、店の入り口にでかでかと貼り出されている魔法省の配布した手配書を指さした。その掲示には、日没後には吸魂鬼のパトロールがはいること、ホグズミード巡回はシリウス・ブラックの逮捕まで毎日続くことが書かれている。そして最後に――眼光鋭いシリウスの顔写真もが、大きく掲載されている。

「な? こういうことさ。吸魂鬼がこの村にわんさか集まるんだぜ。ブラックがハニーデュークス店に押し入ったりするってんのなら、拝見したいもんだ。それに、ハーマイオニー、ハニーデュークスのオーナーが物音に気付くだろう? だって、みんな店の上の階に住んでるんだ!」
「それはそうだけど――でも、」

 ハーマイオニーは腕を組んで眉間に皺を寄せている。なにか、他に文句という名の理由をつけようとしているようだった。けれど、彼女は上手く理由づけ出来そうにないでいる。

「でも、ハリーはやっぱりホグズミードに来ちゃいけないはずでしょ。許可証にサインをもらってないんだから! アルノーだって、きっとそうよ……」
「こんな時にハリーを見付けるのは大仕事だろうさ」

 ロンは深々と降り続けている大雪と、クリスマス前で人がごった返すように行き来している人々の波を指した。「ハリーだって見つかりっこないよ」と、ロンは得意げに論じた。ハーマイオニーは、ハリーが「僕のこと、いいつける?」と聞いてくるが、彼女は「そんなことしないわよ」と、ガミガミがなるように言うので、静かに透明マントの中で笑った。

「なら、今日は楽しもうよ。クリスマス前だ」

 ロンとハーマイオニーと、アルノーに持ち帰る菓子を吟味した。それは、とても楽しい時間だった。代金を支払って購入したあとは、ホグズミードの散策だ。ハリーの見たホグズミード村の景色は、まるでクリスマス・カードから抜け出したような古民家の街並みが延々と続いていて、なんとも見事だった。クリスマスの飾りもチラチラと雪景色の中で煌めいているのが幻想的だが、確かに、いかにも魔法使いの村らしい趣のある景色が続くいているのだから。

「あれが郵便局――」
「ゾンコの店はあそこ――」
「『叫びの屋敷』まで行ったらどうかしら――」

 景色に夢中になっていたが、三人はいつしか雪の吹きすさぶ中、がちがちと歯を鳴らしていた。

「こうしよう。『三本の箒』まで行って、『バタービール』を飲まないか?」

 ロンの提案にハリーは大賛成だった。ハーマイオニーもにこっと笑って、「そうしましょう」と提案を喜んだ。
 店の中は人でごった返し、うるさくて、あたたかくて、湯気やら煙やらでいっぱいだった。カウンターの向こうに小粋な顔をした曲線美の女性がいて、バーにたむろしている荒くれ物の魔法戦士たちに飲み物を笑顔で提供していた。ロンは、「マダム・ロスメルタだよ」と、ハリーに教えてくれた。
 ハリーは透明マントもなしに、いつしか周囲の人々に溶け込むようにひとつのテーブルに座った。ロンが席を立って三つのジョッキを持って帰ってくる。ハリーはロン、ハーマイオニーとかじかむ手でジョッキを持って、「メリー・クリスマス!」と、クリスマス前にも関わらず大げさに言った。けれど、ハリーもハーマイオニーも疑問を口にすることはなかった。素敵なプレゼントをもらったように「メリー・クリスマス!」と高らかに応じていた。
 世界最高の飲み物のようにおいしい味がした。バタービールを飲めば体の芯まで温まるんだ――とは、ハリーもロンから何べんも聞いていたが、本当に魂まで温まるようなぽかぽかした幸せな気分になれる。大げさだなと思っていた過去の自分の思いはなかったことにして、それから、ハリーはロンと他愛のない話をして楽しんでいたのだが――。


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2016/12/24
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