hp長編「牙の預言者」三番目 | ナノ


▼ ★4-2


牙の預言者
4.看守の吸魂鬼 2


「自分から飛び込んで行ったりするもんか……いつもトラブルの方が飛び込んでくるんだ」

 ハリーは苦々しい顔でそう言う。確かに、去年も一昨年も、トラブルの方から飛び込んできたと言ってもいいだろう。それら思い出を頭の中から引き出しながらも、アルノーは「でも」と声を放つ。

「けれど、それ以上に、僕らはいつも首を突っ込みすぎるクセがある」

 アルノーは思っていたままにそう告げる。ハリーは一瞬ムッとした表情を見せたが、今の彼にはいくら灸をすえても、すえすぎるということはない。きちんと警告して釘を刺すのは、大事なことだ。すると、ロンは苦笑しながら「おいおい」と言う。

「おいおい、アルノー。ブラックはハリーを殺そうとしてる危険人物だぜ。自分から、のこのこ会いに行くバカがいると思うかい?」

 ロンは少しおどけたように言ってみせたが、けれど、次の瞬間には表情に暗い影を落としていた。ロンは続ける。

「ブラックがどうやってアズカバンを逃げ出したのか、だれにも分からない。これまで脱獄した者は一人もいない。しかも、ブラックは一番厳しい監視を受けていたんだ」
「だからって、ハリーを狙ってダンブルドアのお膝元まで、そうやすやすと来られるのかしら……どう思う?」

 ハーマイオニーはアルノーに話を振る。けれど、アルノーが思案していることを語ろうとする前に、ハリーの鞄からヒューヒューと口笛を吹くような音が聞こえてきたので、ロンが「きみのトランク、いつから『口笛を吹く魔法』をかけたんだい?」と、からからと明るく笑った。ハリーは自分のトランクを引っつかむと、パッと開ける。

「それ、スニースコープ?」

 ハーマイオニーが問いかけた。スニースコープ、すなわち『携帯かくれん防止機』は、うさんくさい人物や生き物などが近付くとヒューヒューと鳴り出す警報機のようなものだ。それを取り出したハリーは、ロンの手にパスした。スニースコープはロンの手の平の上で激しく回転して、光を点滅させている。

「誕生日のプレゼントに、ハリーに僕があげたんだ。安物だけどね……エロールの足にハリーへの手紙をくくりつけようとしたら、めっちゃ回ったし」
「何か怪しげなことをしていたんじゃないの?」

 段々とけたたましい音に変わっていく、スニースコープの音。ハーマイオニーが耳をふさぎながら、いぶかしむように告げれば、ロンは彼女に「失礼だな」と目を細めていう。

「早くトランクに戻さないと」

 ハリーは大慌てで言った。スニースコープの音は最大限まで大きくなりつつあった。

「じゃないと、この人が目を覚ますよ」

 アルノーは思い出したようにリーマス・ルーピンを見た。そう、このコンパートメントを、今は彼と共にシェアしているのだ――しかし、ルーピンはすっかり深い眠りについているようだが――。
 ロンはスニースコープを、ハリーのオンボロの靴下の中に押し込んで音を殺す。それからトランクの一番下にぶち込んだ。蓋を閉めれば、くぐもった「ヒューヒュー」の音が聞こえるのみとなる。少し静かになったコンパートメントの中、ルーピンは小さく身じろぎしているだけだった。なので、彼の眠りを妨げなくて済んだようだ。

「ホグズミード村で、スニースコープをチェックしてもらえるかもしれない」

 小さなヒューヒュー音の響く中、座席に座りなおしながら、ロンが言った。

「『ダービシュ・アンド・バングズ』の店で、魔法の機械とかいろいろ売ってるって。フレッドとジョージが教えてくれた。ああ、でも僕としては修理なんかはさっさと済ませて、はやいとこ『ハニーデュークス』のお菓子をたくさん買いたいよ……」
「ホグズミードのこと、よく知ってるの?」

 ハーマイオニーが興味津々で問いかける。

「僕だってよく知ってるわけじゃないけど。でも、ジョージもフレッドもいつも自慢してくるからさ。お菓子屋には、なーんでもあるんだって。激辛ペッパー……食べると口から煙が出るんだ。それにイチゴムースやクリームがいっぱい詰まってる大粒のふっくらチョコレート――それから砂糖羽根ペン、授業中にこれを舐めていたって、次に何を書こうか考えてるみたいに見えるんだ――」
「でも、ホグズミードってとっても面白いところなんでしょう?」

 ハーマイオニーが、悦に浸っているロンに横槍を入れる。

「イギリスで唯一の完全にマグルなしの村。『魔法の史跡』を読むと、そこの旅籠は1612年の小鬼の反乱で本部になったところだし、『叫びの屋敷』はイギリスで一番恐ろしい呪われた幽霊屋敷だって書いてあったわ――」
「――それにおっきな炭酸入りキャンディ。舐めてる間、地上から数センチ浮き上がるんだ」

 ロンはハーマイオニーの言ったことを全然聞いてはいない。とはいえ、ロンの語る美味しそうな話と一緒にハーマイオニーの好奇心をそそられる話を聞いていると、アルノーは気分が重たくなる。何故なら、アルノーは母親から許可証のサインをもらえなかったのだから。
 ハーマイオニーはそんなアルノーの気も知らないで、皆の顔をぐるりと見回した。

「ちょっと学校を離れて、ホグズミード村を探検するのも素敵じゃない?」
「だろうね」

 ハリーはすぐに肯定するが、すぐに暗い顔になった。

「見てきたら、僕に教えてくれよ」

 諦め半分にも聞こえるその悲しげなハリーの言葉に、アルノーは顔をパッと上げた。

「どうしてそんなこと言うのさ?」

 ロンが聞いた。

「僕、行けないんだ。ダーズリーが許可証にサインしなかったし、ファッジ大臣もサインしてくれなかったから」
「許可してもらえないって? そんな――そりゃないぜ。マクゴナガルか誰かが許可してくれるよ……」
「あー……マクゴナガル先生は、無理だろうな……寮監だけど、保護者じゃないよ」

 アルノーが呆れたように言えば、ロンはむっすりと怒ったようにアルノーを見た。けれど、すぐに「フレッドとジョージなら抜け道を知ってるかも」と、目を輝かせながら言う。そこで、ハーマイオニーがぴしゃんと「ロン!」と声をあげた。

「ブラックが捕まっていないのに、ハリーは学校からこっそり抜け出すべきじゃないわ――」
「だけど、僕たちがハリーと一緒にいれば、ブラックはまさかハリーを襲うなんて」

 アルノーはへらへら笑っているロンにカチンと来て、先ほどのハーマイオニー同様に「ロン!」とぴしゃんと声を放つ。

「もう忘れたのか? ブラックは捕まる寸前、雑踏のど真ん中で十人以上の人間を粉々にして殺したんだぞ。僕らが何人、何十人いるかなんて、ブラックが問題にするとでも思っているのか?」

 半ば怒りながらアルノーが言えば、ロンはしゅんとしたように小さくなっていた。ハリーも残念そうに床を見ていた。これはいい薬になったかもしれない、とアルノーが思っていると、ロンはハーマイオニーに「アッ」と声を出した。
 ハーマイオニーは飼い猫のクルックシャンクスを籠から出そうとしていたのだ。慌てて、アルノーも「今は止そう」と言うと、ハーマイオニーは窮屈そうにしているクルックシャンクスを「かわいそうだわ!」と言って、怒り出してしまった。ロンは「当然だろう、そんな怪獣!」と言って、大事そうにネズミのスキャバーズを腕に抱いていた。
 気まずい空気が、また戻ってきてしまったと、アルノーもハリーも気を揉むのであった。


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2015/05/04
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