▼ ☆12-2
Heart Throbs
12.逞しき仲間 2
巽完二、彼はその怖そうな風貌とは裏腹にナイーブな心の持ち主なのではと思わされてから。陽介はより詳しい話を聞こうと思って、「んでさ」と彼に声をかける。
「んで、二度目に俺らと会った後の事だけど、何か覚えてる事無いか?……ほら、その白鐘っていう奴と会った後だよ。店の前にいた俺らの事、シメんぞーっつって、追い払った後」
「あ? えっとー……うち戻って……部屋でフテ寝決め込んで……あれ、そういや誰か来たような……」
誰かが来た――という言葉に、皆は一斉に顔を上げる。核心に触れられるかもしれない予感から、急くように完二に問いかけるのは悠だ。
「誰が来たか、覚えているか?」
「あ、いや、そんな気したってだけで、誰も来てないかも……」
その言葉が示すのは、詳細に相手を記憶していないという事実。千枝がじーっと完二を睨むように見ていた。陽介も暗い顔をしているし、雪子はふうっと短く溜息を吐いている。完二は焦った様に見えた。
「あっ、あと、思い出す事っつや……なんか変な、真っ暗な入口みてえのとか……? 気がついたらもう、あのサウナみてえなトコにブッ倒れてたっス」
「真っ暗な入口……もしかしたら、テレビか?」
「あ…? あー、言われてみりゃ、んな気も……てか、なんでスか?」
テレビかと呟くように問いかけた悠に、逆に問いかける完二。完二に答える言葉を莉里達は持っていなかった。完二が事件の捜査(とはいえ一般人の独自捜査だが)に協力してくれるとも限らないので、今は深く追求できない。逆に追求されて、テレビの中の話などを洗いざらいにするのは、どうも気が引けるのだ。そう思っていたのは莉里だけではなかったようで、陽介は慌てて話題を提供する――「警察には、何か訊かれたか?」と、問いかける。
「警察っスか? あー、お袋が捜索願とか出しちまったんで、ちっとだけ訊かれたっけな。今と同じような事言ったら、ワケ分かんねーって顔してたっスけど」
そこまで答えて、完二は、みんなを見渡して、神妙な顔つきになる。
「あーと……先輩ら、もしかして探偵みてーな事やろうっての?」
「んーと、まあ、そんなとこ」
千枝は苦笑しながら答えた。すると、完二は間髪入れずに皆に言う。
「なら、オレも頭数に入れてくんないスか。酷ぇ目に遭ったのが"誰かの仕業"ってんなら、十倍にして返さねえと気が済まねえ」
「……マジ?」
マジかと声を放った陽介だったが、彼は驚き以上に喜びの感情を声色に込めていた。
「そりゃいい、すげー戦力じゃん!……どうよ、リーダー?」
「完二、本当にいいのか?……遊びじゃないぞ」
「ヘッ、遊びで言わねっスよ」
完二はすぐさま、自称特捜本部のリーダーである悠に向けてキリッとした笑顔を向けた。
「命救われたんだ…オレぁ、先輩らのために命張るって、決めてるんで。面倒みてやってほしっス!」
皆は既に腹を決めていた。皆は互いが互いの顔を見合わせて頷く。完二が仲間になった事で、心強い戦力がまた増えた。きっと、彼もテレビの中の戦いと捜査で、力になってくれるだろう。
「じゃあ、仲間が増えたお祝いに"特別捜査本部"行く?」
雪子は嬉しそうに、お祝いの話を切り出した。千枝は「まだソレ言うんだ」と苦笑の表情を見せたが、莉里はすぐに「いいじゃない、"特捜本部"って響き、かっこいいし」と言えば、完二は目を丸くしながら「な、なんスか、ソレ!?」と、特別っぽい響きに動揺している態度を見せた。
悠も乗り気らしく、「連れて行こう」と提案した後、陽介の「しょうがねえな、連れてってやるか!」という言葉が契機となって、皆はぞろぞろと歩き出すのだった。
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完全復活したらしい完二の胃袋は、ブラックホールとは言わないまでも『底なし沼』のような深さを有していた。面々は、これから共に殺人及び誘拐事件の犯人を捕まえる仲間として、完二を迎え入れた。そのお祝いでもあり快気祝いでもあるのだが、完二に好きなものを奢ろうというので……完二は早速、たこ焼きや鉄板焼き屋の焼きソバ、それにビフテキなどなどの食べ物と飲み物を注文して、一気にかっ食らっていた。
彼が食べている間にも皆は犯人像と犯行の手順について色々な考えをめぐらせていたのだが、完二の食いっぷりに、陽介は半ば呆れながら「しっかしよく食うな、お前…話ちゃんと聞いてたか?」と、完二に問いかける。
「んあ? ひーへるっふお」
「こっち飛ばすな!」
食べかすを陽介の方に飛ばしながら、完二は喋る。
「あー、えっと、テレビを使って殺人……っスよね? って事ぁ、撲殺で決まりスね?」
「ちげー!テレビで殴ってんじゃねーよ! どんだけ聞いてねーの、お前!」
こんなんだったら奢るんじゃなかったぜ――と陽介がぼやく横で、莉里は苦笑しながら、「まあまあ」と声を放つ。
「まあまあ……でも、完二くんも自分の足で"向こう"に入ってみれば分かるんじゃないかな」
この後、クマの所にも行こうという話になっていたので、莉里はそう話した。その更に横で、千枝が「けど」と喋る。
「けど、犯人の手口、雪子ん時と同じだったね。まずさらって、それからテレビに入れる」
「うん……怖いね」
千枝の隣に座っていた雪子は、沈痛な思いで、恐怖を口にする。
そんな時だった。莉里達の陣取っている席の近くで、ギャハハ、という下品な笑い声が起こった。ちらりと様子を窺うと、完二と背中合わせになるように座っているのは、八十神高校の男子生徒が座っていて、なにやら大声で会話をしている。男子生徒の一人は「つーかさ、例のテレビ、最近、けっこー面白くね?」と、話している……それが『マヨナカテレビ』の話だという事は、明白。その隣のテーブルにいた莉里達全員の脳裏をかすめるのは、完二の出てしまったあのマヨナカテレビの回の事だった。
男子生徒の連れは「"次に出んの誰?"とか、気になるなー!」と、楽しげに話に相槌を打っている。
「オレ前から、次はぜってーアイツって思ってたんだよ。名前なんだっけ、1年の暴走族上がりの……」
その言葉に、皆が表情をなくした。完二のあの褌一丁の映像が、頭の中に過ぎる。皆がじっと完二を見つめ、何処か悲しげにしていると、完二は自分に気付かず自分の噂話をされている事で、すっかり頭にきているらしい。
「次は誰と思ったって?」
立ち上がって、完二が振り向いた。低い声音は、これは完全に怒っているという意を示していた。むしろ、怒る以上に――キている、と言った方が良いだろう……。
「そいつぁ多分、“巽完二”って名前だな……ちなみに、ゾク上がりじゃなくて、ゾクを潰した方だけどな。誰だテメェら……!」
完二が拳を構えると、慌てて弾むように立ち上がった男子生徒二人は、猛ダッシュで「ひえぇぇ〜!」という情けない声を出しながら、怯えながら逃げていく。その男子生徒二名の姿があっという間に見えなくなると、完二はチッと舌打ちした。
「んだよ……つまんねーな」
「やり切れないね……殺人事件との絡みとか、よく知らないで言ってんのかもだけど、同じ学校の子なのに……」
千枝は悲しげに言葉を零す。千枝の言葉に、完二はもやもやとしているような表情をして、再び席に腰を降ろす。完二の隣に座っていた陽介などは呆れかえっていて、不機嫌そうな表情で言う――「自分には関係ないって思ってんだろ」と。
「関係ねーとか、自分は大丈夫だとか、観客気分なんだろ……次に誰が狙われるか、分かんなくなって来たってのによ」
確かに、関係ないと思っているならば……完全に他人事として、好き勝手に噂話に花を咲かせてしまうのにも納得はいく。溜息を吐きたくもなる、その場の全員だった。
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2016/09/14
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