P4長編「HeartThrobs」 | ナノ


▼ ★6-3


Heart Throbs
6.決意と理由 3


「犯人、全員で協力して、捕まえてやろう」

 悠の言葉に、言葉どおりの決意を胸に刻んだ後も、青空の下、話し合いは続いていた。その話題はいつしか、どうやって犯人を捕まえるか、という内容になっていた。

「今んとこ、手がかり無しだよね」

 千枝が視線を宙に漂わせながら言った。その千枝の横顔を見ながら、コンクリート製の建物の突起物の上、千枝の隣に座っていた雪子が、ぽつりぽつりと、言う――。

「狙われたの、私で三人目だけど、これで終わりなのかな?……もし、次に狙われる人の見当つくなら、先回りできない?」
「先回り……なるほど、いいかもしれないね」
「それなら、今までの被害者の共通点、挙げてみよう」

 莉里が雪子の言葉に頷くと、「それなら、纏めよう」と、悠は喋る。

「一人目、女子アナの"山野真由美"。二人目、"小西早紀"先輩。三人目、"天城雪子"。全員の共通点は……女性だな」
「女性ばっか狙いやがってぇ! 許せん! きっとヘンタイね」

 屋上の突起物に座っている千枝がぐっと握り拳をして、怒りを露わにする。女性ばかりを標的にする犯行は、莉里も確かに怒りを覚える。
 莉里がそう思って、苛立ちに似た気持ちを澱ませていると、陽介が――あと、これは?――と、口を開いた。

「あと、これは? "二人目以降の被害者も一人目に関係してる"」
「あ、そっか……小西先輩は遺体の発見者で、天城さんは旅館で、山野アナと接点があったんだね……」

 莉里が事件を整理するように言えば、雪子が静かに「と、すると」と、言う。

「とすると……"山野アナの事件と関わりのあった女の人が狙われる"……ってこと?」
「とりあえずは、そう考えられると思う。で、これも多分だけど、次もし、また誰かが居なくなるとすれば……雨の晩に、"例のテレビ"に映るかもしんねーな」

 皆がはっとしたように、陽介の言葉に俯き気味だった顔を上げた。

「天城ん時もそれっぽいの流れたよな? 最初のうちはハッキリ見えないけど、重要なのは、居なくなる前に映ったって事だ……まるで"誘拐の予告"だぜ。あれが何なのかは分かんないけど、今は当てにするしかない」
「次に雨が降ったら……か。見逃さないようにしないとな」

 悠が呟くよう言った言葉に、皆して頷く。
 犯人像を手繰り寄せることも、殺人する理由を推理することも、なかなか進まない、今……。次の被害者を予測する手がかりは、"マヨナカテレビ"しか無さそうだ。
 次の雨の夜には、忘れずにテレビを見ないと――と思っていると、陽介が「ところでソレ、もう出来てんじゃね?」と、千枝と雪子の持っているカップ麺を指差した。

「うおっと、そうだった!いっただっきまーす!」

 千枝も雪子も、慌てるようにして、べりっと蓋を剥がした。麺をほぐす様に箸をつっ込み、そして二人はずるずると、麺とスープをすすり出す。湯気の立つカップからは、何ともいえない美味しそうな香りが漂ってきて、莉里はごくり、と唾を飲んだ。
 陽介はそれを――芳しい香りを我慢できなかったようで、千枝の前で両手の平をピタッと合わせて、拝むようなポーズをとった。

「な、先生、ヒトクチ!とりあえずヒトクチ味見!」
「うっさいな!アンタも買えばいいじゃん」

 千枝はとげとげしい口調で言う。けれど、まだお願いするポーズを保ったまま、じっと視線を逸らさずウルウルと千枝の方を見ている陽介に、千枝は根負けしたようだ。

「……ったく、ヒトクチだけだかんね」

 緑色のカップ麺とお箸のセットを、千枝が陽介に渡す。その横で、雪子の方をじっと見ていた悠が、雪子から「ちょっと食べる?」と言われて、頷いていた。

「う、う、うメェェェ……オレ、まじ、腹ペコの子羊の気持ち分かるわ〜」
「空腹に染み入る味だ」

 カップ麺の中身を、一気に――ズズズズッ!!!――と、すする、大きな音がした。これは、きっと、中身をごっそりいっているな――と思うと、莉里は目を細め、「あーあ……」と思わず声を出していた。
 ズズズズッという威勢のいい音に、慌てて千枝と雪子が、カップをひったくるようにして己が手に戻した。

「ギャー! 何してんの、おたくら!……具ごと全部いかれてんじゃん……」
「お、おあげ……」

 悲痛な声をあげた雪子の、好物だったのだろう……おあげ。莉里も、"赤いきつね"と"緑のたぬき"の具は、どちらも好きだ。それをロストしてしまった彼女たちの悲しい、そして怒りの気持ちは、莉里だって手に取るように分かる。
 千枝は男子二名をぎろりと睨んだ。

「何したか、分かってんでしょーね」
「い、いやいやいやいや!待て、ごめん、悪かった!」

 陽介に続いて、悠が「すまない……」と、雪子の方に向けて、魔がさしてしまった旨を謝る。けれど、女子二人はじとっとした、そして冷たい視線を男子に浴びせている。その視線に耐えかねたらしい陽介は、慌てて取り繕うような言葉を口にする。

「代わりに肉!肉おごっから!」

 空になったカップ……どんぶりを抱えて、どんよりしていた女子二人。肉、という文字に反応したのか、顔を上げた。

「肉だぞ、肉!?き、聞こえてる?」
「肉……!?」

 千枝は無類の肉好きだ、ということを、莉里はどこかで風の噂に聞いたことがあった。(ような気がした)
 その情報が「正しい」と示す証拠に、千枝の目の中にはきらきらした光が射している。莉里の瞳に映っている千枝は、少し悩んでから、隣の雪子を見た。

「おあげ……」
「まーまー、雪子、肉で手打とうよ。カップ麺なんて、いつだって食べれるし。ね?」
「……脂身少ないのなら、いいよ」

 雪子は、そんなに肉に対して執着はないようだ。しかし、カップ麺はいつでも食べれるというフレーズに動かされたらしい。脂身少ないのなら――と、小さく頷いていた。

「よっし、協議の結果、肉で許す!」

 千枝の顔に紅が差す。

「脂身少ないのって、フィレ?あー、フィレ肉、なんて芳醇な響き!フィレ、フィレ、フィレ、フィレに〜く〜♪」
「お、おい、もちろん同罪のお前も、強制参加だからな!」
「あ、ああ……分かった……」

 悠と陽介は、己の犯した過ちを悔いている様子で、けれどとりあえずは許してもらえた事に安堵しているように、長い息を吐いていた。

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「っていうことがあってね、"エビで鯛を釣る"じゃないけど、カップ麺でビフテキ奢ってくれたんだって……」
『そうか、なかなか面白い友人達が出来たようだな』

 既に真っ暗になった、帰りがけの道。街路灯のぽつぽつと灯った中を歩きながら、莉里は電話をかけてきた桐条美鶴と喋っていた。
 カップ麺騒動の後、莉里は肉を奢ってもらう千枝たちと別れ、急いで病院に行っていた。駆け込みで祖母と会っていたので、既に周囲は暗くなりすっかり静まっている。

 電話をかけて来た美鶴は、莉里が今も街中をウロウロしている事をひどく心配していた。だが、莉里は彼女に言った。
 ――確かに犯人はまだ捕まってないけど、今回の事件はきっと山野アナ絡みだろうから、関係ない私は大丈夫だよ――と。
 自分たちが事件とテレビの世界に足を突っ込んでいるとは口が裂けても言えなかったが、美鶴に余計な心配はしすぎないで欲しいと伝えていた。
 そう、莉里は、今日のカップ麺・騒動は話せても、自分達が独自に捜査を開始したことは、絶対に話せない。例え、それがかつてシャドウと戦った仲間である美鶴であってもだ。
 言えば絶対に、美鶴は莉里を止めるだろう。止めないにしても、巌戸台で暮らしていたかつての仲間が招集されて、彼らを再び、シャドウと戦う過酷な運命を背負わせてしまう可能性も、否定出来ない。莉里は、それだけは避けたいと思っていた。
 美鶴は、そんな莉里の憂慮を知ることなく、他愛ない会話を続ける――。

『転校生とあって、もし莉里が虐められでもしたら、直々に乗り込んで行こうと思っていたよ』
「こっちの学校、そういうイジメはないみたい。田舎だからっていうのもあるのかな? 皆優しいし、いい人ばかりだよ」
『それなら安心した。いい友人は一生の宝だ……というのは、莉里も分かっているだろうが』
「うん、分かってる。姉さん達も、大事な宝物だもん」

 きっと一生変わらないよ――と、莉里が言うと、美鶴は嬉しそうに『莉里も、私の大事な宝だ』と、少し照れたような声で言う。
 莉里は、夜道を歩きながら思う。大事だからこそ、知らせないで、シャドウと再び戦うこの運命を、ひとり背負って行こう――と。


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2014/10/28
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