P4長編「HeartThrobs」 | ナノ


▼ ☆3-2


Heart Throbs
3.醒めるちから 2


 祖母の見舞いから帰宅した莉里は、風呂と食事を済ませ、テレビの前で待機する。
 里中千枝と交換したばかりのメールアドレス。それを使って、千枝は莉里に今日のジュネスでの活動報告を送って来ていた。

『テレビの中には雪子はいないみたいって、クマが……あ、クマって分かる? テレビの中に住んでるっぽいクマみたいな生物なんだけど』

 莉里はその返事を――鳴上くんから、クマのことは聞いてるよ。今日もマヨナカテレビ、見ておいたほうがいいよね?――と、送信すると、すぐに千枝から――今夜のテレビ、見ておこうね――というメールが送られてくる。
 そうしている内に、時刻は深夜零時になって……莉里の家のテレビ、電源が入っていないソレに、不思議な映像が流れ始めた。

『こんばんは〜!』

 テレビ画面、マヨナカテレビには、ピンク色のドレスを身に纏った天城雪子が映されていた。彼女はテレビのリポーターの持つようなマイクを手に持ち、ニコニコ笑顔でカメラに視線を送っている。
 どうやら、今日のマヨナカテレビは砂嵐の混じった映像ではなく、ちゃんと撮影されたような映像を流しているらしい。その雪子の姿は、ほとんどハッキリ映しだされている。テレビに映っているのが誰なのだか、見間違える事なんてないくらい、鮮明に。

『今日は私、天城雪子がナンパ……逆ナンに挑戦してみたいと思います! 題して、"やらせなし!突撃逆ナン!雪子姫の白馬の王子様探し!"』

 雪子は――も〜、超本気ぃ〜!――と、元気が良いと言うか明るいと言うか、おしとやかそうな雰囲気とは違うというか、キャラが違うと言うか……そのような、絶妙なテンションで、ぺらぺらと喋る。

『見えないトコまで勝負しよ〜、はぁと……なんちゃってね。……も〜、私専用のホストクラブでもぶっ建てる位の意気込みでぇ〜!』

 じゃ〜あ、行ってきまぁす!――と、雪子らしき人物は、背後にどんと存在している西洋風の城のような建物の中に、わき目もふらずに駆けて行ってしまった。そして、そこで映像は途絶えた。
 その映像が終わった瞬間、莉里の携帯電話が震えた。ブーブーと机の上で振動している携帯電話を掴んで、莉里は着信画面の――里中千枝――という文字を確認してから、電話に出る。

「もしもし、里中さん?」
『み、見た?……今の見た!?』

 とりあえず落ち着く様にと言うと、千枝は――そ、そうだよね、落ち着かないとね――と、告げて、少しの間を置いてから、莉里に再び喋りかけて来る。

『実は、夕方からずっと雪子と連絡が取れてないの! 明日になったらまた旅館の方に電話してみるけど――、』
「えっ……天城さん、大丈夫かな……」

 莉里が言葉を発すると、間もなく、千枝も莉里に言葉を投げかける。

『と、とにかく、明日は休みだし……ジュネスに集まろ! 花村にも、あたしから連絡しておくからさ』

 そう提案した千枝に、そうしたほうがいいね、と莉里は頷きながら告げる。おやすみなさいを言うのもすっかり忘れていたが、莉里は――居なくなったりしてないよね――と、大きな不安を覚えていた。

- - - - -
- - - -
- - -
- -
-

 明けて十七日、日曜日。今日は学校は休みだ。
 早起きしてジュネスに行く準備をし、私服を身に纏った莉里は、ジュネスの開店に合わせて出かける。そうして到着したジュネスは、日曜日とあってか、人の混み具合も平日よりも多そうだった。
 待ち合わせをした場所は、店のフードコート。そこに向かうべく、ジュネス一階の入り口に足を踏み入れた莉里に、大きな声で喋ってくる人がいた。

「天柄さん、おはよ!……じゃなくて、た、大変なの……雪子が……!」

 その声は里中千枝のものだった。どうやら、到着が一緒だったのだろう。千枝は普段学校でも身に纏っている緑のジャージに似た、同じく緑の上着を羽織っての登場だったが、その様子がおかしい。

「里中さん、おはよう……天城さんがどうかしたの?」

 莉里がそう問いかけた瞬間、千枝は目を涙ぐませる。そして、莉里の肩を掴んで、わしわしと揺さぶった。

「ゆ、雪子が居なくなっちゃったの!」
「え、えええ!?」

 揺さぶられながら、莉里も目を大きく見開いた。とりあえず落ち着いて、と千枝に向けて声を掛けるけれど、千枝も莉里もすっかり動揺しきっていたので、落ち着くなんて出来はしなかった。やっとの事で、千枝が掴んでいた莉里の肩を離す頃には、普段はニコニコ笑顔を浮かべている千枝は、不安げな表情になって、泣き出しそうな顔をしていた。

「さ、里中さん、と、とりあえずフードコートに行こう。鳴上くんたちも来てるかも……」

 そう思って、二人で急ぎフードコートに向かおうとしたが、店の外がなんだか騒がしいことに莉里は気が付く。
 何だろう、と思った莉里と千枝が外界とジュネスの中を隔てている壁、ガラス張りになっているそこから外の景色を眺めると、思いがけない所で、陽介と悠の二人を見かけてしまう。
 なんと、莉里の視線の先にあるパトカーに、悠と陽介の二人が連行されていたのだ。
 二人が莉里の姿に気がつく間も、そして莉里が二人の名を呼ぶ間も無い内に、パトカーの扉が閉められる。莉里が茫然と見ている間に、その白と黒のペイントがされた車は、走り出してしまった。
 それを見送った後、千枝が――どっ、どどど、どーいう事!?――と、声を放った。

「え、えっと……とにかく、警察行かなきゃ!」

 莉里が駆け出すと、千枝も一緒になって駆け出した。


- - - - - - - -
2011/09/12 初出
2014/07/01 再投稿
- - - - - - - -

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -