P4長編「HeartThrobs」 | ナノ


▼ ★0-8


Heart Throbs
〜序章 うつろうもの〜
8.新しい季節


 三月のはじめの事。祖母が再び倒れ、入院をすることになった。
 莉里は急いで祖母の元へ向かい、一週間ほど、祖母に付き添った。祖母は今後も入院が必要になると、病院の医師から告げられた。年のせいか、相当に、体が弱っているらしい。
 その話を聞いた莉里は、一週間の間に、自分の気持ちを固める。
 そして、次の春から祖母の傍で暮らすことを、決めた。

 桐条美鶴には、まず誰より最初にその思いを話した。海外の大学に通っていて、直接話す事は出来なかったが、電話の受話器越しに、莉里は自分の意思をちゃんと伝えた。
 唯一の肉親である祖母が大変な時に、彼女のそばにいてあげられないのは辛い、と。
美鶴はそんな莉里の決意を、前向きに受け取ってくれたようだった。莉里がそうしたいのなら、私も出来る限りの事をして送り出そう――と、莉里の新しい生活をバックアップすると言ってくれた。

 そして、莉里はかつての仲間たちに連絡を取り、遠く八十稲羽の土地へ引っ越すことを伝えた。
 全員、とても寂しがったし、莉里が一人暮らしを始めるということを、とても心配した。けれど、莉里の意思がかたいことを知れば、誰もがみんな、莉里の思う様にやってみるといいと、優しく背中を押してくれるのだった。

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 そして、三月の終わり。月光館学園、高等部の一年生……その学生生活を終えた莉里は、明日からは稲羽市の祖母の家で生活を始めることになる。
 莉里は、墓地を訪れた。そして、結城理の墓の前にやってくると――久しぶりだね――と、独り言のように、莉里は墓に向けて喋りかけた。
 墓石に刻まれた彼の名前をじっと見つめ、莉里は彼との思い出を……特別課外活動部の皆と、一緒に巌戸台の寮で暮らし始めた頃を、思い返す。

 最初に莉里が理に出会った時、理のことを――なんて不思議な人なんだろう――と思った。
 影時間と呼ばれる、一般人には感じ取ることが出来ない不思議な時間の中で戦ううちに、莉里はその理の、不思議な魅力に惹かれていった。
 莉里は、そんな魅力的で大好きな彼を、兄のように慕い続けた。理に接する莉里は、恋をするというよりは、信望し、憧れを抱くような感覚だった。兎に角、莉里は、理が好きだった。そんな理に、莉里が己の心の内を見せることになったのは、自然な成り行きだったのかもしれない。

 幼い頃にペルソナ能力に開花した莉里は、どうして自分が戦わなくてはいけないのかを考えるかの前に、自然と戦いの中に身を置くようになった。覚悟もさして決めぬまま、不安定な心のままで、莉里は戦っていた。そして、これからもずっと、不安な戦いが続いて行くのかどうかを、悩んでいた。桐条の家を、自分の力を恨んだ時期もあった。
 けれど、そうやって悩む莉里に、ひとつの答えを出してくれたのは、他でもない、結城理だった。

 莉里は、思う。
 きっと、今の自分がここに居るのは、彼のおかげなんだろうな、と。
 自分のペルソナ能力を受け入れて、自分を戦いに縛り付けた桐条家と美鶴を許して、戦いに終止符を打つべく戦う事が出来たのも、全て理のおかげだと、莉里は信じていた。

 手帳の中から、そっと、理の写真を取り出す。莉里は、その写真を見つめた。無愛想ではないけれど、無表情のままで佇んでいる理に、莉里は――ありがとう――と告げた。そして、小さく微笑んでから、その写真を手帳の中に戻した。

 これからは、祖母の傍で、新しい土地で、今とは別の生活を始める。知り合いもいない新しい土地に向かい、そこに住まうというのは、とても勇気がいることだ。
 莉里はそれを――見守っていてね――と、理に祈った。


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2011/04/20 初出
2014/07/01 再投稿
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