小説 | ナノ 謹賀新年


ゴーン、ゴーンと除夜の鐘が鳴る。
こたつに入り、おめでとうございます!とテンションの高いテレビを見ながら蕎麦をすする。あれ、年越し蕎麦って年越してから食べるものだっけ。

「っはあー……苦しい」
年越しだからって色々食べ過ぎてしまった。一人なのに。台所で食器を片付けていると、外が明るく賑やかなことに気づく。小窓を開けて覗くと老若男女問わず多くの人が出歩いていた。
年明け早々に初詣かなぁ。

江戸の初詣とはどんな感じなんだろう。当たり前だが皆着物だし、その雰囲気は抜群だ。出歩いているのは家族連れや恋人同士がほとんどだが、一人が寂しいとか恥ずかしいという気持ちはないし、観光気分で人の波に乗ろうと上着とマフラーを取り外へ出た。

年甲斐もなくキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く。商店街も今日は灯りが灯り正月飾りが綺麗に映えている。時代劇みたいだ、なんて陳腐な感想が浮かぶ。
「よ!花子ちゃん!」
後ろから声をかけてきたのは、祭りの時にお好み焼きを焼いていた長さんだ。奥さんと並んでいる。
「明けましておめでとうございます」
「おめでとう、今年もよろしくな!しかしなんだ、若ェのに一人か?」
「色気なくてすみません」
笑って言うと、奥さんがこら、と長さんの肩を叩いた。長さんはその肩を擦りながら苦笑いしている。

別れを告げてまた道を進むと、ようやく神社が近づいてきた。鳥居がライトアップされている。なんか異世界に行けそうな雰囲気。
思わず足を止めた。急に自分が取り残されたような気がしたからだ。

世界が違う。本当に江戸なんだと、圧倒されてしまって。
邪魔そうに行き交う人が避けていくから、ここにいてはいけないなと、来た道を戻るために踵を返した。
「花子」
「……え?」
誰かに名前を呼ばれた気がして振り向くも、大勢の人だかりで特定できず、首を捻りながら前を向いた。

すると今度はスッと手首を握られる。そのもとを辿ると、銀時が寒そうに立っていた。
「あ……明けまして、おめでとうございます」
「おう、おめでとさん。一人か?」
「ええ。でも人が多くて帰ろうかなって……坂田さんは?」
「神楽と来たけどあいつどっかいっちまったわ。見つけらんねーだろ、これじゃあ」

人は段々と増え続けて、派手なチャイナ服を着ている神楽さえも見つけられそうにない。
「待ち合わせ場所とか決めてれば良かったですね」
「まあいいわ。どーせ屋台にいんだろ」
そう呟いた銀時に手を引かれる。進むのは踏み入れるのを戸惑った鳥居の方向だ。
「えっと」
「一人なんだろ、付き合えよ」

銀時は人を掻き分けて歩くのが上手いらしい。これだけの中をほとんどぶつかることなく進めている。
「坂田さんは毎年来てるんですか?」
「行くかよこんな人混みん中」
聞けば、新八がお妙と年明け早々に初詣に行くと聞いた神楽が自分も行きたいと言い出したのだという。
「お父さんも大変ですね」
「あんなじゃじゃ馬に育てた覚えねーけどな」

なかなか前に進まない列に並び、なんてことない会話をする。一人が寂しいなんて気持ちはないと思っていた。だけど、たったこれだけの会話で取り残された、なんて気持ちが吹っ飛んでしまう。
寂しいって、思ってたのかな。
「あー寒ィ。おしるこ飲みてー」
そういえば、手繋がれたままだ。

「おや花子ちゃん、また会ったな!」
お参りを終えた列に長さん夫婦がいて、すれ違いざまにまた声をかけられた。こんなに人がいるのに、すごい確率だ。
「すごい人ですね」
「これぐらいは毎年恒例さ。お、隣の兄ちゃんはお登勢さんとこのだな?なんだ二人、手なんか繋いで!水くせェな、そういう仲なら言ってくれよ!痛っ!」
奥さんがまた肩を叩いて、お辞儀をしながら遠ざかっていく。弁解する余地もなかった。

「坂田さん、手離しましょうか」
人から指摘されると、恥ずかしいものだ。
「いいじゃん離すと冷てェし、リア充っぽいし。見ろよ周りの奴らを。どいつもこいつも浮かれやがって。それに離したらお前居なくなりそうだし。男一人は惨めだぜ」
結局そのまま賽銭箱の前まで来てしまい、ようやく手が離される。すうっとした空気が手のひらを包んだ。

五円玉を投げ入れて鈴を鳴らす。二礼二拍手の後、何をお願いしようかと悩んでいる間に後ろがつかえて慌てて礼をした。
帰りの列に並べば、自然に手を繋がれる。人の温かさって、こんなに染みるものだっけ。

「……坂田さん、おしるこ奢りますよ」
「え、マジ?」
「はい。あ、そういえば」
「あ?」

「今年もよろしくお願いします」





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