小説 | ナノ あの日


万事屋を見ていると、家族ってなんだろうと思うときがある。血が繋がってなくても家族になれる。そんな絆が彼らにはあって、そんなときあるお願いを銀時に持ちかけた。
「海に連れていってくれませんか」
めんどくせえ。銀時はそんな顔をした。
「依頼料払いますから」
「よし行くぞ」
手のひらを返したようにそれからの行動は速かった。

原付にまたがり銀時のお腹に手を回す。スピードが上がるごとに風が突き刺さる。少し肌寒い。
海に着く頃には体が冷えてきて、自販機のホットココアを二人で飲む。

「……泳ぐにはさみーぞ」
「泳ぎませんよ。ただ海が見たくて……あ、先に帰ってもらって大丈夫ですよ、ありがとうございました」
そう言ってお金を渡すが帰る気配はなく、ココアをちびちび飲みながら海を見ている。その隣に並びながら、まっすぐで、少し丸みを帯びてて穏やかな海を眺める。


あの冬、確実に日本が何か変わったあの日、私はただ早く日常が戻ればいいってそれだけを考えてた。そして月日が流れて日常が戻ってくると、仕事が始まり、家に帰れば美味しいご飯を食べて、お風呂に浸かって温かい布団で寝ていた。

ずっと、私は皆が掲げる絆の中には含まれていなかっただろうと思う。絆ってなんだろうとすら思っていた。がんばろう日本て、何を頑張るんだろうって。どこまでも自分を守ることに精一杯だった。

「なに泣いてんだよ」
「泣いてませんよ」
波打ち際まで歩いて、銀時に背を向ける。

この世界に来てから時々思う。誰かと笑ったとき、誰かの料理を食べたとき、家に帰ってホッとしたとき、その日々を過ごしたいのはここじゃなかったって。戻りたいと強く思う時がある。今更ながら、それが絆なんだということを知った。

でも、私はここで生きてる。
隣に立って、一緒に海を見てくれる人がいる。
「花子、」
名前を呼んでくれる人がいる。
「……っ」
大切になってきているんだ、この世界が。

あの日失われた命がどうかそんな世界と出会っていてほしい。どこにいたって故郷を想うことはできるから。



私は、ここで生きています。




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