小説 | ナノ 出会う


かぶき町路地裏。
今日は何かのイベントをやっているようで、大通りが混雑していた。ただ家に帰りたいだけなのにスーパーを出たらこれだ。頭のなかで人混みが人ゴミに変換された。

しかしそんなことを考えていても家には着かない。真っ昼間だし大丈夫だろうと思って路地裏に歩みを進めた訳だが。
一つの建物を過ぎた辺りで若い女性が誰かに対して必死に許しを乞うている。時折悲鳴混じりの声を上げながら目には涙が浮かんでいた。
見てしまった。
心の底からため息をつく。路地裏には平和という文字はないのかと。

向こうからは死角になっているのか、こっちは気づかれてはいない様子で、このまま引き返してあの人ゴ……混みの中を歩く決心をした。
右足を一歩引いてくるりと向きを変える。そのとき女性が頭を下げる相手の声が聞こえた。
「オイ女、金が払えねェなら脱げ」
足が止まる。
「そ、そんな……、」
「今更おせーんだよ!オラ、脱がねェなら脱がしてやらァ!」
「キャー!!いや!」

これはヤバイというところで辺りにパトカーのサイレンが響く。それが聞こえたのか男は舌打ちをして呆気なく去っていった。
花子は携帯のボタンを押す。同時にサイレンも止まった。着メロリアルサイレンVer.が役にたつ日が来るとは。
女性はしゃがみこんで胸元を押さえている。行くべきか、見なかったことにして立ち去るべきか。

頭を悩ませているうちに、サイレンが鳴った割には警察が来ないと思ったのか、女性は辺りをキョロキョロしてから立ち上がった。髪はボサボサ、着物もヨレヨレで化粧も落ちている。正直、何もなかったとは絶対に言えない姿だ。
せめて着付けぐらいならと、女性に近づいて声をかけた。
「……大丈夫、ですか?」
すると女性は一層胸元を押さえる手の力を強めて私に背中を向ける。その背中にそっと手を当ててさすってあげると、女性は肩を揺らして鼻を啜り始めた。
「何も知らない私が言うのもなんですが、知り合い……でもないですけど、警察の人紹介しましょうか?あんな男とは早く縁を切ったほ」
「あんな男ってどんな男だい、お嬢ちゃん」

バッと後ろを振り向くと、この女性と対峙していた男が腕組みをしてニヤリと笑っている。
冷や汗をかく隙もなく女性の手を引いて逃げようとした。だが、背中に圧痛を感じて息が苦しい。
つむったまぶたを開けると、さっきまで弱々しく泣いていた女性が壁に私を押さえ付けて目の前で笑いながら首を絞めてくる。喉がヒューと鳴った。
「……な、に」
混乱したのはその状況だけじゃない、女性の笑い声が低いのだ。
「なに、だってェ!ははは、馬鹿なの?見てわかんねえのかよ」
「騙してごめんねお嬢ちゃん、こいつの女装完璧だろ?まさか女が助けに来るとは思わなかったがまあいい。お嬢ちゃん、手っ取り早くいこうや。金、持ってるか?」
その一言で理解した。
カモにされたんだと。

締め上げる力が強くなる。
「オイ返事しろよ、持ってんの〜?持ってないの〜?早く答えないと首の骨折っちゃうよ」
「……持、ってな、い」
さっき買い物して財布には五百円しか入ってない。生理的な涙を流しながら答えると、女装男の目付きが変わった。人を殺す人の目ってこういうんだって思った。
「クソアマ、死ねよ」
「てめェが死ねよ変態」
また男の声が増えたと思った瞬間、花子の顔に血飛沫がかかり、女装男がガクッと倒れた。後ろで腕組みしていた男も同様に。

一気に酸素が肺に迫り、膝をついて大きく咳き込む。手足に力が入らなくてそのまま地面に横になった。そこから見えたのは、刀に付いた血を払う、真選組の沖田総悟だった。





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