小説 | ナノ 事件


段々と寒さが増してきた。土方は歩きながら自分の吐く息が白いことに気づく。
「近藤さん、入るぞ」
サッと襖を開けると、近藤はニタニタと写真らしき紙を見ながら笑っていた。どうせ志村姉の盗撮写真でも見てんだろ。
「オイ近藤さん、いい加減にしろよ」
「あ、トシ!お前も見ろよ!このお妙さん綺麗だろ?」
土方はタバコに火をつけ、ふぅーと煙をその写真に向けて吐く。それに対し近藤は「やめろォ!」と必死に写真を抱く。
さすがに気持ち悪い。
「どうでもいいんだよ。それより、聞いたか?変な男が女に声かけまくってるっつー話」
「変な男?」
「ああ。桜の……なんとかに君を見ただかなんだか言って若い女に声かけて、探してる奴じゃねーとすげェ形相で去っていくんだと。志村姉の職場の奴らも数人声掛けられたらしい」
知らなかったのかよ、と土方が呆れ顔をしたが、近藤はそれどころではなくなったようだ。
「なにィ!?お妙にも魔の手が!?ちょっと俺行ってくる!」
そう叫び、庭先から飛び出して行ってしまった。その様子を呆然と眺めていると、後ろから憎たらしい声が聞こえた。
「桜の散り際に君を見た、ですぜィ。ちゃんと覚えとけよ土方」
「ッるせぇ!テメーは見回り行け!」






かぶき町の若い女性に聞き取りを行って回ると、意外な事実が見えてきた。変な男だと聞いていたからてっきりそういう身なりの男だと思っていたのだが。
「長身のイケメンか……」
新八はメモ帳を片手にそう呟いた。そんな男なら逆に目立ちそうなものだけど、声をかけられた女性達はその後一度も男の姿を見ないという。
しかも、女性達の中では怖い思いをしたにも関わらず、あんなにイケメンならもう一度会いたいとまで言い出す者までいた。一体何者なんだ。
「……あ、花子さん!」
考え込む寸前に、道路を挟んだ向いに見知った顔を見た。彼女も何か聞いているかも知れないと、新八は花子を呼び止める。名前を呼ばれて足を止めた花子も新八に気づき、そちらへ歩の向きを変えた。


「久しぶりだね。どうしたの?」
呼ばれて向かったはいいが、新八は何故か神妙な顔で立ち私を迎えた。面倒ごとだろうか……
「ちょっと聞きたいことがありまして……長身のイケメンに変な声のかけられ方をしたことはありませんか?」
「ないけど。なにそれ、人探し?」
何かのフラグを感じたが気にしない素振りで尋ねると、「実は、」と話を切り出された。
内容を聞くに、その話は3日ぐらい前にウメちゃんから聞かされた変な男のことなんだろうか。長身のイケメンという特徴は知らなかったが。すっかり忘れていた、そんな話。
「その男について知ってることはありませんか?」
「……え?ああ、人から変な男がいるらしいってことしか聞いてないな。そんなに有名なんだね。私全然知らなくて……ごめんね、役に立てなくて」
「そんな!こちらこそ変なこと聞いてすみませんでした。でもその男の話が至るところで広まっていることは分かりましたから。これも一歩前進です」
16歳で出来た人間だな、全く。

別れ際、少しだけ銀時の愚痴を聞かされた。話をしたのに相手にされなかったんだと。「ではまた」と去っていく新八の背中を見ながら思う。
多分銀時はもう動いてるんじゃないかな。新八も、分かっているくせに。
「……はぁ。家で大人しくしてよう」


新八と別れ、家に戻ってきた。
これは何かしらの形で巻き込まれるだろうと頭のどっかが言っている。桜の散り際に、というフレーズが妙に引っかかるのだ。私がこの世界に来たのは春。ちょうど桜が散り始めた頃。それに、あの瞬間、私は急に現れたはずだ。見られていてもおかしくない。
「私じゃね?」
その男の探し人って。
考え過ぎなら、それはそれでいいんだけど。

そろそろ夕食の支度でもしようと立ち上がり、無音の部屋に少しだけ不気味さを感じてテレビをつけた。雑音があったほうが今は落ち着く。テレビをつけたまま、花子は台所へ向かった。

「ーーー次のニュースです。昨夜未明、かぶき町付近の使われていない空き倉庫の中で、二十代前半と見られる女性の死体が発見されました。身元は不明で現在調査中です。発見したのは近くの別の空き倉庫に暮らしていたホームレスで、発見された当初女性は衣服が乱れ、右手首を折られていたということです。しかし性的暴行の跡はなく、司法解剖の結果、死因は毒殺。真選組が調査に入ると見られています」














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