小説 | ナノ 眠い


意識が浮上するのを感じて目を開けようとしたとき、意識が浮上するという事態に疑問を持った。それはつまり、どういうことだ。
「っ!?」
バサッと上体を起こして周りを確かめた。家じゃない。しかも部屋が暗い。寝ていた布団も自分のものではない。サッと襖が開けられる音と同時に室内に明かりが入り込み、目を細める。
「起きたか。つーかよく寝てたな。いびきかいてたぞ」
その声を聞いて先程までの出来事を思い出した。
「……今何時ですか」
「11時40分。もちろん夜のな」
「あー………すみません布団借りてしまって。というか、寝てしまってすみませんでした。今すぐ帰りますから。本当すみませんでした」
自分の失態を思い知って急いで立ち上がりながら謝罪を述べる。私が寝てしまったがゆえに銀時は布団で寝れなかったはずだ。その眠そうな目を見ればすぐに分かる。花子は寝癖のついたボサボサの髪を押さえながら、銀時のいる部屋の方へ向かって歩き出す。
「あの、」
だが何故か銀時は襖の前から退かない。逆光でよく見えないが、目をつむっているように見えるのは、気のせいだろうか。
「坂田さん、退いてくださ……え、寝てる?」
「起きてるわ!」
突っ込む気力も無い。まさかこんな時間まで寝てしまうとは思わなかった。その事実にいても立っても居られなくなり、銀時を強引に押し退けようとするも「お前はバカか」と、バシンと頭を叩かれたことでそれも未遂に終わる。
(痛ぁ〜……)
叩かれた頭を擦っていると銀時は私の手を引いて和室中央に戻りだす。半ば二人とも寝ぼけてるんだと思う。敷かれた布団まで来ると、「トウッ!」と掛け声を出して銀時は私をぶん投げた。
「ううわっ……!何するんですか!」
受け身も取れず背中から落ちたことで一瞬意識が飛んだ。銀時を睨みあげると、向こうも向こうで無表情に私を見下ろしてくる。
「なんですか」
「何するんですかなんですかって、オメーはちっとも変わんねーな。少し考えたら分かるだろーが」
「心配なら心配だって言葉で言えばいいじゃないですか」
「分かってんのかよ!」

布団の上で腰を押さえながらうずくまる私と、だらーんと座り目を虚ろにさせる銀時。夜中に騒いだせいで疲労感が一気に増した。銀時が欠伸をした。やっぱり眠いんじゃないか。

「……夜中だぞ」
「寝ていいですよ」
「お前一人で帰してなんかあったら目覚めわりィだろーが」
「じゃあ送ってくれるんですか?」
「…………」
なんで寝てしまったんだろう。なぜ起こしてくれなかった。そう思ったとき、唐突に母を思い出した。
目覚まし時計をつけているから大丈夫だと言っているのに、二度寝が好きな私の性格をよく理解していて、毎朝起こしてくれていた。「起きなさーい」って間延びした感じの母の声が好きだった。たまにイラッとする時もあったけど。
「どーした」
隣から聞こえる間延びした声。
母の声を聞くことはもうない。でも、銀時の伸ばし方がちょっと似てる。それに懐かしさを覚えた。
「坂田さんてお母さんみたいですね」
「はぁ?意味分かんねー。……つーかなんでそんなに帰りてーんだよ。男はいつでも狼になれるが、花子ちゃんは襲わねーよ?ちょっと最近ご無沙汰だけどそこまで飢えてないから」
「それを心配してるわけじゃありませんよ。その発想には引きましたけど」
じゃあなんだよ、と目で訴える銀時にちょっと笑った。私が襲われることを懸念してると思ってたのか。
「なんて説明すればいいですかね〜……」
改めて考えると難しい。なぜ万事屋に居たくないのか、ということをどう伝えればいい。まずなぜ自分はこんなに早く帰りたがっているのだろう。
「万事屋に居たら、自分が変わっちゃうから、ですかね」
「良いことじゃねーか」
「感覚なんですよ。確かに変わることは良い事かもしれない。きっと世界が広がるだろうし、楽しくなるだろうし。でも、変わっちゃいけない部分があるんです」
死んだ自分を受け入れきれてない自分とか、元の世界の考え方の基準とか。つまり、今の私を形成しているもの。
「それが変わると、繋がりが消えてしまう気がするんです」

帰ることを、諦めてはいないから。

「……分かんねーわ」
「自分でもよく分かりません。女心は複雑ですから。ただ、なかなか自分は変われないなってことを受け入れたら、変わっちゃいけない部分が見えてきたっていうか……やめましょう。疲れました」
でも、今日一日で気づいたこと、人は一人では生きられないということは胸に刻みたい。

「私、坂田さんにもそういう線引きあると思ってました」
「どーだかな」
「……眠いですね」
「オウオウ寝ろ、寝てしまえ」

よし、今は寝よう。そして、日の出とともに帰ろう。




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