小説 | ナノ 想い


私は何故かケーキの材料を揃えてそれを自宅の冷蔵庫に保管し、ケーキを作るための道具を台所に準備した。明日の朝神楽がやって来る。只今の時刻午後10時。そして布団に入りながら思う。
何故誘ってしまったんだ、と。


ーーーピンポーン
来た。
神楽は意外にも約束の時間ピッタリにやってきた。家の場所は昨日の時点で教えてある。一応手書きの地図は渡したが、「大丈夫?来られそう?」と神楽に聞くと「馬鹿にすんじゃないヨ、私を誰だと思ってるネ!かぶき町の女王アルヨ!」と鼻息荒く答えるから、昨日はそれ以上何も言わずに解散した。

「いらっしゃい」
「おじゃまするヨ〜、おお意外とキレイにしてるアルなあ」
神楽は私と話すとき、上から目線になる。誰にでもそうかもしれないけど、私との場合はぎごちなさが生まれる。神楽もそれに少し緊張しているようだった。

「すぐ作れるように準備はしてたから」
「そうアルか。ご苦労ご苦労!」
「……じゃ、作ろうか」
やっぱりぎごちない。その分、彼女が私に気を使っていることが感じ取れて、いじらしいというか、なんだか申し訳ない気がしてしまう。そんな自分に苦笑すると「何で笑ってるアルか」と神楽につっこまれた。「なんでもないよ、神楽ちゃんが可愛いから」と答えると、彼女は下を向いて少しだけ頬を膨らませた。

作業に取り掛かると、神楽は真剣に取り組んだ。ケーキは作ったことないというが卵を割るのだけはかなり手馴れている。卵白を泡立てるのなんて電動に勝るとも劣らない速さだ。さすが夜兎。
その間、神楽からはいろんな話を聞かされた。宇宙旅行に行ったことや、父親のこと、万事屋の愚痴に沖田の悪口。お妙とのガールズトークの内容まで、嬉しそうに。そのどれもに私は初めて聞いた時のような反応をして、ある意味聞き上手を演じた。
神楽は気づいているだろうか。いや、まさか。
「楽しいんだね、神楽ちゃんは」
「楽しくなんかないヨ。みんなワガママで困ってるアル」
そう言える仲間がいて、羨ましい。


ーーーチン
オーブンのタイマーが鳴った。少し余熱を取ったあと、ゆっくりとオーブンから容器を取り出すと、生地が綺麗に焼き上がっていて、二人で顔を見やって笑う。
「いい匂いアルな」
と、ここで重要なことを聞き忘れていたことを思い出した。
「今日、渡すんだよね?何時にとか決まってるの?」
「夜の6時に新八の家に集まる予定アル。でも準備があるからなァ〜、4時には行くヨ」
時計を見た。昼休憩を少し取りすぎたようで、針は15時を示そうとしていた。
「ちょっと急ごうか」
クリームを塗ってイチゴを乗せて、ちょっと不器用な神楽に変わって板チョコにメッセージを書いた。
‘誕生日おめでとう!銀ちゃん!’
彼を坂田さんと呼ぶ私にとって、ちゃん付で彼の名前を書くことに違和感を感じた。神楽が書いたように偽装はしたつもりだが、よく見ると‘銀’の字が無駄に達筆だ。

ラッピングを終えた時点で時刻は15時35分。なんとか間に合った。あとは神楽がゆっくり運んでくれることを祈るのみ。
「じゃあ気をつけてね。ケーキ、潰さないように」
「がってん承知アル!」
玄関先で見送りをする。すると神楽がこちらを向き、何故か手を出してきた。握手、という意味らしい。その華奢だけどしっかりした手を握ると「冷た!冷え症アルか?」と声を出す。右手だからね。先程まで調理をしていたから手袋をしていない。だが彼女はそんなこと気にも止めずにこう言った。
「お前、案外いいやつアルな。今度は一緒に酢昆布作るネ!」

さすがに酢昆布の作り方は知らないと苦笑する私に、手を握りながらまた神楽が言った。
「花子も一緒に来るアルか?多分銀ちゃん喜ぶヨ」
「…………」
「どうしたネ?」

素直に、嬉しいと思った。だけど、想像してみてよ。その集まりに私が参加することによって少なからず気を使わせるのは目に見えている。せっかくの誕生日、気の置けない仲間と騒いだほうが、きっと彼は喜ぶだろう。

「私は、明日早いから。せっかくだけどごめんね。楽しんで」

結局私はこうするしか出来ない。












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