小説 | ナノ 甘い


4日前、翌日に仕事があることを口実に万事屋から帰ってきた訳だが、その翌日、つまり3日前、仕事には行かずにずっと寝てた。トイレと食事以外布団から出ていない。特に体調不良でもなんでもなくただの気分だ。2日前、冷蔵庫が空になって仕方なく買い物へ出かけた。一時間で済ませてすぐに家に帰った。
そして昨日、あまりの自堕落生活に少々自己嫌悪に陥って、気分転換に団子でも食べようかと町に出た。と言っても家から徒歩十分で着く距離だが。

「あ!花子さん!久しぶり〜」
「うん、久しぶり」
私を見つけて団子屋の看板娘、ウメちゃんが声をかけてきた。綺麗なオレンジの着物にタスキをかけて、キラキラしてる彼女は私とは正反対の人物だ。気立てが良くてハキハキしてるし、それに何より、可愛い。
「お持ち帰りにする?」
「いや、食べてこうかな〜と」
「ええええええ!珍しい!花子さんの口からそんな言葉が出るなんて!いつも逃げるように買って帰るからビックリ!」
「いや、それは大袈裟でしょ」
みたらし団子二本を注文して、しばらく縁側の席でくつろぐ。ウメちゃんは、意外と私の性格を理解している。

「はいどうぞ!」
「ありがと」
ここの団子は少し甘さが控えめでお茶によく合う。一本食べ終わったところで、ウメちゃんにジッと見られていることに気づいた。
「なに?」
「……今日仕事ないんですか?」
「……聞かないで」
「また家にこもってるんですかぁ〜!?そんなんだからいつまで経っても暗いんですよ雰囲気が!花子さんちゃんとすればそれなりに綺麗なのに!」

(それなりにかよ…)
彼女に引きこもりをしていることを話したことはないはずなのに、何故か知った口振りで話されるとドキッとする。
「私はいいの。ウメちゃんは?噂の彼とはどうなったの?告白したの?手繋いだの?チューしたの?」
「な、なにもないですよ!何言ってるんですかもう!」
「ああ、もしかして抱かれブハッ!」
「やめて下さい!恥ずかしい!ああもうやだー!」
キャーキャー言いながら背中を叩かれる。顔を赤くしてクネクネする彼女は素直に可愛らしいと思う。

きっと、元の世界で出会ってたら仲良くはならなかった。そういう確信がある。知り合ったとしても、彼女のほうから私に話しかけることはないだろうし、私も話しかけはしないだろう。彼女はもっと明るくて楽しい人と友達になる。ウメちゃんはそういうタイプだ。私なんかとは友達にならない方がいい人間だ。
それが今、雑談を交わし恥ずかしがる彼女を可愛らしいと思うようになっている。彼女も、私を見つけては笑顔で手を降ってくれる。その笑顔はお世辞ではないとわかる。
この世界に来て数日か数週間か経ったころ、マンネリの生活に飽きて団子屋の看板娘と話すぐらいならと、町に出たことがあった。結局その日は話しなどできずに帰ったのだが、いつからか、こうしてその団子屋の看板娘であるウメちゃんと談笑するようになった。
未だクネクネしている彼女を尻目に二本目を食べ終わり、料金を席の上に置いて立ち上がる。
「ごちそうさま」
「あ!また来てね花子さん!」
既に歩き出し離れる私の背中に明るい声が届いた。さすが、次も来たくなると思わせるのは看板娘たる所以か。

私達が仲良くなったのは、この世界がそうさせてるんだと思う。
だから私が変わったんじゃない、この世界が出来過ぎているんだ。それに付随する人間もまた然り。


そして今日、仕事に行ってきた。
おばちゃん二人は理由も聞かずに「また頑張りましょう」と優しく声をかけてくれた。やっぱり二人なら分かってくれると思った。こればかりは、素直に甘えてしまいたい。

「お疲れ様でした」
「おつかれ、明日もちゃんと来るのよ?」
「はは、大丈夫ですよ」
「そう。ならいいけど。じゃあね、気を付けて帰るのよ!」
ああ〜、なんか普通の会話だ。それだけで少し気が安らぐ。
仕事が終わり、まだ15時であるというのに既にクタクタだった。急に何か甘いものが食べたくなって、職場近くの洋菓子店に立ち寄った。ここは洋菓子がメインだけど、小さい子供も入りやすいようにと、店内の端では駄菓子も売っていたりする。
「いらっしゃいませ〜」
店に入ると店員の元気のいい声と甘い匂いが漂う。
ケースに並ぶケーキやクッキーを眺めていると、ふと隣から視線を感じた。私もそちらに目を向けると
「神楽ちゃん……」
私が顔を向けると同時に神楽は正面に素早く顔を戻し、そして声が聞こえたのか、一瞬ピクッと肩を上げた。その反応に、私も正面に顔を戻し、ケースを見ながら考える。
声をかけるべきだろうか。彼女は少なからず私の事を受け入れていない。だが、あからさまに顔を反らすのにここを立ち去らないのは、理由があるんだろう。
まあつまり、私がこの店から出ればいい話だ。
お目当てのものが無い振りをして、さり気なく後ずさる。すると神楽が勢いよく「おまえ!」とこちらを振り向くもんだから、今度は私が肩をピクッと上げてしまった。

(え、私……?)
「な、何?」
「……ここで何してるアルか?」
「いや、ケーキ買おうかなって」
「……」
洋菓子店に何しに来たのかを問われて、まさか遊びになどと答える人はいないだろう。当たり前の事を言われて神楽は口を閉ざす。
「か、ぐらちゃんは?何してるの?」
「……見てるアル」
「見てるって、ケーキを?買わないの?」
「買ったら意味ないネ。手作りが男の胃袋を掴むアル」
「男!?」
「勘違いすんじゃないネ!銀ちゃんに作るアル!銀ちゃん明日誕生日だから……」
なるほど。お金が無くて買わない訳ではないようだ。
「どういうケーキ作るの?」
「普通のイチゴのやつでいいアル。チャラついたもんには興味ないネ」
チャラついたもんに興味が無いのは神楽ちゃんであって、銀時は派手なケーキが好きそうだと思うのだが、彼女もきっと一緒に食べるのだろう。こういうのは口出ししないほうがいい。
「新八君も一緒に?」
「一人で作るアル!サプライズヨ!でも作る場所が無いネ。万事屋で作ったら銀ちゃんにバレるアル……」
「ああ、なるほど……神楽ちゃん」
「何ネ」
「うちで作る?」


こうして、神楽がうちに来た。









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