小説 | ナノ 意味


どうしたらいいか分からないとき、本当にピンチのとき、私にも絶対的な味方という存在がいたのだ。数は少ないが、親とか、親友とか。絶対的と言うのは過言かも知れないけど、ただ、目には見えなくても心配してくれていると感じることはあった。そんなときは、不器用な私は気づかないふりをして、でも後でちょっとむずがゆくなったりする。

振り返ると、そういう存在が居たから自分を保っていられたし、頑張ろうと思うこともできたのだと思う。




「じゃあな、ちゃんと戸締りしろよ」
「大丈夫です。子供じゃありませんから」
「どーだか」
あの後、結局病院へは戻らなかった。いや、戻れなかった。
銀時と手を繋いで、半ば引きずられるように家に帰ってきて今に至る。その時の銀時は駄々をこねた子供をあやす母親みたいだった。神楽達で手馴れてはいるだろうから、私を家に引き戻すことなど容易いことだったろう。

私も意地になっていた部分がある。だって、銀時に弱みを見せるつもりは無かった。それに加え、自分にはさも力があったかのように話す自分は、いかに滑稽で哀れだったか。思い出すだけで、恥ずかしさと後悔が後を絶たない。今は変に自分を取り繕っていないと、おかしくなりそうだった。

「今日はもう病院行くなよ」
「そこまで馬鹿じゃありません」
「そーかい」
電気も付けずに、玄関の敷居を挟んでそんな会話をする。こんな暗闇でも銀時の髪は目立つ。すぐに銀時だと分かる。これが主人公の存在感だろうか。

私がボロを出してから、銀時は一切何も聞いてこなくなった。なぜ私が病院にいたのか、なぜお婆さんのことが分かったのか。帰りの道すがら、そう聞かれるだろうと覚悟していた私は拍子抜けだった。そういえば、銀時はなぜあの場所にいたのだろう。さっきはうまくはぐらかされてしまった気がする。
一人考え込んで黙った私に、銀時は急に後ろに振り返って歩き出す。
「じゃーなー」
「あ、ちょっと!」
手を振って歩き出す銀時を呼び止めた。
「坂田さんは、なんであそこにいたんですか?」
そう問いかけると、銀時は「なに、俺のこと気になんの?」と答えた。
(なんだコイツ…)という素直な感情が表に出たのか、私の眉間にシワがよる。
「ンな怖ェ顔すんなよ、冗談だろ。……カンタから言われたんだよ。なんかあったらすぐに駆けつけたいから見ててくれって」
「……まだ、依頼続いてたんですね」
「諦め悪いからな、アイツ。お前にはもう頼れないから、自分で何とかするっつー話だったが、そこで俺に泣きついてくるあたりがまだガキだよな。ま、それだけ大事な人なんだろ。アイツにとっても、母ちゃんにとっても」
「え?」
「いや、つまり、ひっくるめて言うと、お前のせいじゃねーよってことなんじゃないの?知らねーけど」
「え、意味、分かんないんですけど……」
意味なんか後からついてくるもんだろ、そう言ってそそくさと銀時は帰って行った。

慰めだったのだろうか?たまに思う。銀時だけじゃなくて、この世界の人達は、私には難しすぎる。接し方も、会話も、距離の取り方も。ただ言えるのは、あれは私のせいだってことだけだ。
自分も部屋に入り、畳んでいた布団の上に、そのままぼすんと横たわる。病院には行けない。行けるわけがない。それに、もうあの家族には関わっちゃいけないと思うのだ。傷つけてきたし。やっぱり山崎みたいにはなれなかった。
(どうしようか……これから)

私には、泣きつける相手がいないから、自分で考えなくちゃいけないのに。

気付いたら寝てた。




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