小説 | ナノ 怖さ


「子供の話ぐらい、付き合ってやればいいじゃねーか」

飲み終わった紙コップをクシャリと潰しながら銀時がそう言った。
「……付き合うも何も、私にはそんな力ありませんから。それに、出来もしないことを出来るって言って希望を持たせるほうが酷じゃないですか」
「希望があるから、それにすがって頑張れることもあるだろ。それを望んでるヤツがいるなら付き合ってやるってだけでもいいじゃねーか」

しかしそれは結局、偽善行為に過ぎないのではないか。希望を持たせて、やっぱり無理でしたって?

そう思ったら、つい口をついて言ってしまった。
「……さすが、万事屋ですね。いつも人助けしてるだけあって言うことが違う。素晴らしい自己犠牲だと思います。でも私は、そんな芝居に付き合えるほど暇じゃないんですよ。悪いですけど、そういうの嫌いなんで」

銀時の目が微妙に変わったのは、きっと気のせいじゃない。そのまま嫌えばいい。最低な女だと思えばいい。
花子はスタスタと玄関まで行くと戸に手をかけ、銀時に向かって帰って下さい、と言葉をかける。無言で立ち上がりこちらに歩いてくる銀時からは威圧感を感じるが、花子は下を向いて耐えていた。だが何故か花子の真ん前で立ち止まると、花子を見ながらそのまま何かを考え込んでしまった。

165pと現代ではまぁまぁ大きめの身長である花子だが、隣に並ぶと銀時との体格の差を感じる。その探るような上からの目差しに沸き上がる怒り。いい加減にしてくれ!と発言しようとして空気を吸った。その瞬間「怪しーな」と銀時の言葉でその行為を遮られた訳だが。その事に余計苛立ちが募ってしまい口調が荒くなる。

「怪しい?ふざけてるんですか」
「いや?至って真面目よ俺ァ。ただ……なんかを押し通そうとしてるように見えんだよ、なあ花子ちゃん」
「……」
「お前さ、何隠してんの?」

とうとう花子は口を開くことさえやめた。隠すも何も、銀時には関係がない。
「……帰って下さい」
「あ、図星?」
「っ、ふざけないで」
人を見透かすように見てくるこの人が嫌いだ。



ドン、と背中で音がした。壁に私の背中が付いた音。

いつの間にか後ろへ後ろへと下がっていたようで、銀時は逃げ道を作らせないかのように目の前に立っている。至って真面目な表情で私を見下ろして。
「…………」
「…………」
「……退いて下さい」
「俺ァさ、魔法とかどうでもいい訳よ。ただアイツにああいうこと言われちまうとこっちも困るんだわ。依頼の取消されたらどーしてくれんの?あ、因みに依頼内容はあんたに会ってばあちゃんを治して欲しいってことな。アレアレ、今無理だろって思った?わっかり易いなお前」
下を向いた顔をさらに下に向け、多分銀時には後頭部しか見えていない。
「こっちも生活かかってんだよ。言え、何隠してる」
「……最低ですね」
「あ?」
「生活のために人の秘密を無理矢理暴こうだなんて、最低です」
「ハッ、人のこと言えた義理かよ。お前も自分の保身に精一杯じゃねーか。そんなに自分が大事か?……おい、こっち見ろって」

そう言うと銀時は手袋をしている花子の右手を掴み上げた。咄嗟に銀時の顔を睨むように見上げるも、そのまま壁に押し付けられられる。もはやされるがままだった。

「………」
「………なあ」
「……、…」
「何が怖いんだ、花子」






カンタに助けを求められて思い出したことがある。男の子の体が道路に傾いてトラックが近づいてきたとき、人生で一度も出会ったことの無い目で私を見た。死にたくない怖い助けて嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……そんな感情が一瞬で流れ込んで来た。

そして、私は死んだ。

力を使うことで中二病とか王道に繋がることももちろん嫌だけど、それ以上に、誰かを助けたら自分がまた死んでしまうんじゃないかって。
そう思ったら怖かった。
二度も死ぬ恐怖を味わいたくない。


でもそんなこと、この人に言えるわけないじゃん。助けることが怖いから助けてって?そんなの……

右手に伝わる銀時の熱。それを消し去ってしまう私の右手。まるで今の二人みたいだ。




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