小説 | ナノ 現実?


トントン……

テレビを観ていたとき、玄関先からノックが聞こえた。
昨日は清掃員と職員が総出でオフィスのワックスがけ。それのお陰か現在太ももが酷い筋肉痛で、立ち上がるのでさえやっとの状態だ。
「こんな時に……どっこいしょ!」
はいはいどちら様ですかと戸を開けると、そこには銀時が立っていた。最近、何かと関わりが多い。

「どうし……あれ」
「こんにちは!」
銀時の後ろに誰かいることに気づくと、ひょっこり出てきたのは、あの男の子だった。
とりあえず家の中へ招き入れ、紙コップにお茶を注ぐ。一人暮らしで客も今まで来たことないから、紙コップなのは許容して欲しい。

「はい、どうぞ」
「ありがとう!」
「なんだよいちご牛乳とか気のきいたもんはねーのか」
「……それで、どういったご用件で?」

聞こえる文句に無視をしつつ、二人に向かってそう尋ねた。とたん、少し言いづらそうに口をつぐむ男の子。その隣では考えの読めない表情でいる銀時。何しに来たんだ、本当に。
「猫のことですか?あ、君の飼ってた猫だったんだね。写真見てびっくりしたよ」
「うん、ぼくも!お姉ちゃんが拾ってくれたってきいてびっくりした!だからミケもね、長生きしてるんだよ!」
「え?長生きって、余命一ヶ月じゃ……」
花子は銀時に視線を送る。どういう事ですか?と。こういう子供の辻褄が合わない話は正直苦手だった。

「おいカンタ、説明しろ」
そのやる気のない一言に、待ってましたとばかりに目を輝かせ、カンタは口を開く。
「最近、ミケの体が心配だから病院につれていってるんだ。そしたらね、先生が良くなってるって言ったの!悪いところが前よりもちいさくなってるんだって!だからきっとお姉ちゃんの魔法がミケを治してくれたんだって思って。だけどお母さんに言っても信じてくれなくて、このお兄ちゃんも信じてないんだよ?……だからね、お母さんとか、このお兄ちゃんの前で魔法みせてほしいんだ!そしたら信じてくれるでしょ?それにね、ぼくのばあちゃんも、病気なんだって……お母さんが泣いてたんだ。先生も治せないって……お願いお姉ちゃん!魔法でばあちゃんも治して!お姉ちゃんしかいないんだ!」

「…………」
「お姉ちゃん!ぼくとミケを治してくれたでしょ?お願」
「やめて!」
遮るように花子は声を上げる。

やめて

子供のこういうところが嫌いだ。馬鹿正直に自分が見たもの、信じたものを周囲に拡散する。誰かが助かるということは、誰かが犠牲になっているというその背景に気づくこともないまま。
自分の意識が冷めていくのを感じた。
今までずっと情報社会に生きてきて、こういう言葉ががどんな影響を与えるのかいやというほど知っている。一度受けてしまえば切りがなくなる。

力を使えば噂が広がる。そうなれば多分、平和には暮らせない。2次元てそんなもんでしょ?
あの時の私の決意を、崩すつもりはない。

だから、私は慈善活動に勤しむほど出来た人間じゃないんだって。

「花子」
銀時に呼ばれた。初めて名前呼ばれた。
「なんですか」
「なんですかってお前なァ」
「ああ、すいません。ごめんねカンタ君。私には治せない。第一魔法なんて使えないから」
「でも!」
「見間違いじゃないの?ミケの事だって、私が治したんじゃなくてカンタ君の看病のおかげだよ。おばあちゃんは残念だけど、私には何も出来ない。ごめんね」

花子が言葉を発する度にカンタは目に見えて萎縮していった。泣き出すかと思ったが、唇を噛んで耐えているようで、だがついには耐えきれなくなって走って出ていってしまった。

なんで私が悪者の空気になってるのかが分からない。子供に優しくしろなんて言ってるのは偽善者だけでしょ。現実を教えているだけまだいいと思うんだけど。

フォローも何もせずに銀時はお茶をすすっている。

花子は閉まった玄関戸を見つめた。










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