小説 | ナノ さよなら


私はとんでもない面倒くさがりだ。出不精だし、争いごとはとことん避けて巻き込まれたら徹底して中立を保った。冷たい人だ、なんて言われたこともあるけど、それでも人間関係には恵まれていた。親友もできたし、職場の方々にだって良くしてもらった。平凡だったけど、そりゃあつらいこともそれなりにあったけど、それでもあの穏やかな生活はとても幸せだったと思う。



横断歩道前、こんな蒸し暑いのに私の真横では見知らぬカップルの喧嘩が繰り広げられていた。信号待ちの間にだんだんとヒートアップしていく言い争いに、OLもサラリーマンも学生もみんな見て見ぬふり。もちろん私も右に倣えで無視を決め込んでいた。

「だいたい、あんた何様のつもりなのよ!私が稼いだお金でしょ!?」
「うるせえ!!」
「キャー!!なにすんのよ!離して!!」

とうとう暴力沙汰に発展したか……
ちらりと目をやった。男が女の茶色に染まった髪の毛をわしづかみにして前後左右に大きく振り回す。

勘弁してくれと再び目をそらしたとき、女が何かにぶつかった。
同時に、OLの叫び声が耳を掠めて、

覚えているのはトラックの警告音と温かい、誰かの体温。








向こうを見ると、白い布を顔に掛けられて布団に横たわっている私がいた。その周りでは家族が泣いてて、親戚や近所のおばさんが若かったのに残念ね、とか、助けた男の子も重体なんだって、とか。なにそれ。


さよなら、私の人生。








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