小説 | ナノ 幸福


仕事も波に乗り、収入も安定。同僚に誘われて行った有名歌手のライブで知り合った気の合う彼氏。月に1度はどんなに忙しくても実家に帰り、家族と夕食を楽しむ。
なんて幸せなんだろう。
いつかは結婚して、子供をもうけて、家事に子育てに奮闘して。温かい家庭を築いていく。


ここで花子は目を開けた。
風を感じて瞬きを繰り返し、周りを見回してようやく寝てしまっていたことに気づく。ここは川沿いの土手。まさか外で寝るなんて、マダオの仲間入りだ……
空を仰げば日はそれなりに高いので余り時間は経っていないようだった。
「あーあ、首痛っ……」
首を横に曲げるとパキパキ音がして少しスッキリした。

それにしても、なんださっきの夢は。嫌がらせとしか思えない。仕事も収入も不安定で同僚はおばちゃんだし、家族なんていないし。
猫、まだ生きてるかな〜……
一昨日連れていかれたばかりで、まだ若干の寂しさが残っていた。いつどうなるか分からない身として、この世界の人達に情は移さないと心のどっかで決心していたのにこの様だ。なかなか私も甘いんだな。

「よォ」
突然後ろから声を掛けられた。土手の草を踏む音がして、近づいて来ているのだと分かる。
「お目覚めですか、お嬢さん」
見てたのか
「、……いつから居たんですか」
「さァ?覚えてねェ。つーかよくこんな湿気た場所で寝れんな。カビるぞ」
そう言いながら隣に座る銀時。昨日今日の関係なのに、馴れ馴れしくもあるこの態度はこの世界の定番なんだろうか。あと、風通しは良いからカビてない。

昨日までは天気予報の通り台風並の大荒れな天気だったが、今日は売ってかわっての快晴。気分転換に時々来るここで景色を眺めていたのだが。
「風が気持ちよかったのでちょっとうとうとしただけです」
「あっそ」
「何かご用ですか?」
「ああ、これ。」
手渡されたのは一枚の写真だった。男の子と、ふてぶてしく写るあの猫。
「余命一ヶ月なんだと」
「は?」
「その猫がだよ。ガキの母親が言ってた」
唐突に言われた言葉に、驚きと同時に納得した。やっぱりあいつ、分かってたんだな。

「随分、幸せそうに写ってますね」
猫の表情に皮肉を込めてコメントすると隣の男が小さく吹き出す。笑った理由はあえて聞かない。
体操座りをしてじっと写真を見つめる私に反して、銀時は伸びをしたあと草っぱらに寝そべった。
「伝言、ちゃんと伝えたから。ありがとうちゃんと大事にするよ!だとさ。マセガキが、ボロボロ泣きながら言ってたぜ」
わざわざ真似しながら台詞を言う銀時に少しだけ笑う。そりゃあ良かった。
「看病も日頃の世話も全部自分でやるって張り切って張り切ってどうしようもねェって母親が愚痴ってたけどな。魔法で治すだのなんだの言ってるらしいが、ホントに最期まで世話出来んだか」
「大丈夫ですよ、この子なら」
「え、なに、お宅ら知り合い?」
「ええ、一度だけ会ったことがあります」

魔法で治し治された仲ですよ。

なんて言えないけど、そっか、この子か。いい笑顔で写ってる。

人によって幸せは違うけど、彼らの幸せは一緒に過ごすことなんだと思う。そして隣で横になってる彼の幸せは、きっと万事屋での平和な生活、はたまた旧友たちとの関わりだろうか。やっぱり人によって幸せは違うけど、ふと考える。私の幸せってなんだろう。

もとの世界での成仏?さっきの夢みたいな暮らし?いや、どちらでもない。
きっと、今の平和な生活で、十分幸せなんだ。
だってさ、なんか笑えるようになってきた。



「つーかお姉さんさ、下の名前何よ?」
「ナンパですか」
「ちげェーよ!!」







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