小説 | ナノ 猫2


仕事帰り。スーパーで買い物をしたり、川沿いの道をぶらぶら歩いたりと、ちょっとだけ寄り道をしていたらいつの間にか夕方になってしまった。
藍色に染まりつつある空を見て、少しだけ速度を上げ始める。そして昨日やって来た居候について考えを巡らせた。

昨日は雨が降っていてかなり肌寒かった。どうやら梅雨の時期にさしかかったようで、雨粒が流れ落ちる様を窓から眺めていたところだ。外から猫の鳴き声がして、窓から身を乗り出して鳴き声が聞こえた方向へ目を向けた。こんなに寒いのに、野良猫だろうかと思い、動物はまぁまぁ好きだったからちょっと外に出て確かめてみたのだ。
そこには、軒下で雨に濡れてながら震えている、よく見れば、結構年をとった三毛猫がいた。口回りの毛が白くなって、近づいても逃げることなくいやに落ち着いている様が、その視線が、何かを覚悟したようなそんな雰囲気を出していた。

「……風邪ひくよ」
「ニャー」
「死んじゃうよー……」
「ニャー」
「……おいで」
「……ニャー…」

言葉が通じてると思わせるほどタイミング良く鳴く。手招きをすればトテトテと近寄ってきた。もしかしたら飼い猫なのかも知れない。
足元に刷りよってきた猫をそのまま抱き上げると、暴れることもなく、大人しくされるがままに部屋へ連れて行くことができた。前日の風呂の残り湯を大きめのたらいへ入れ、ヤカンで沸かした熱湯を混ぜて丁度よい温度の簡易風呂を作り、玄関で大人しくしている猫を入れてやる。温まるようにと手のひらでお湯を掬って少しずつかけてやると、猫は目を細めてなんとも言えない表情をしていた。
「気持ち良さそうだな」
温まった頃合いを計ってバスタオルにくるんでやり、ドライヤーで毛を乾かす。体全体を撫でながら乾かしていたから、マッサージになったのかも知れない。また気持ち良さそうに目をつむり、そのまま猫は眠ってしまった。
毛並みも良いし、きっと何処かで飼われていたんだろう。

タオルにくるまる猫を撫でながら思う。職場のおばちゃん達以外で生物と触れ合うのは久しぶりだった。あれからちょっとこの世界の人と接するのが怖く感じたから。
だがこうして生き物に触れあっていると、不思議な感じがした。二次元で生きてるものは、所詮作り物でしかない。作られた世界で作者が望む展開を暮らしている。だけど、漫画やアニメでは知らない人々もここには沢山いて、確かに彼らは生きている。意思を持って、自己を持っている。この猫も、はたして全てを作者が作り出したと言えるだろうか。

完全に眠ってしまった猫にタオルをかけてドライヤーの電源を切った。ふと、坂田銀時に捕まれた左腕に手を当てる。
作られた世界の人かも知れない。だけど、あの時助けてくれた彼の意思は、彼自身が生み出した。何故なら、私は作者が知らないキャラクターだからだ。そう、作られた世界だけど、彼らにとってここは現実なんだ。彼らはちゃんと現実を生きている。

そして私も、ここでの現実を生きている。三次元とか二次元とか、そんな小さい事ではないのだと、この猫から今教わったような気がする。みんな、作り物なんかじゃない。同じじゃないか、私と。

人間関係も頑張んないとな。

なんて思った1日だった。

ただ、未来は分からないけど。







「ただいま〜」
「ニャー」
そんなこんなで、昨日から我が家に住人が増えた。
「今日の夕飯は刺し身だよー」
「ニャー」














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