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*夢主がぶっ飛んでる。
*何でも許せる、且つ、あの服に指を突っ込んでみたい方向けです。超注意。



 ──そう。それはすごく、ものすごく間が悪かっただけなのだ。
 あの瞬間を手に入れるために大きな犠牲を費やした。普段ならば絶対にこんな危険を冒してまで実行したりしなかった。そう考えれば、ある意味間が良かったとも言えてしまうのかもしれない。

 なにせその領域に触れることは、もう二度と許されないのだから──。

「………………」

 私の目にそこが留まったのは、何故か自分のベッドから身を引きずり下ろされ寝床を強奪された後だった。

 部下を冷たい床に落とし、空いたベッドを我が物顔で占領する主人。冷たい床からその後ろ姿に恨めしい視線を送っていたが敢え無く無視される。
 ちなみに何故彼がわざわざ私を落としてまでベッドを奪ったのかはわからない。おそらくただの暇つぶしと趣味の嫌がらせだろう。

 どう仕返しをしてやろうか、あるいは彼がそこで寝入りベッド内へ侵入可能になるまで待つか、と思考を巡らせていたその時。私は見つけてしまったのだ。

 引き締まった、そこ。否、はっきり言おう。

 ──ギラヒム様の、美尻。

「………………」

 誰に伝える訳でもないが、一つ弁明したい。
 ただそこに綺麗なお尻があるだけなら私は何も思わなかった。……まじまじと見入るくらいはしたと思うけれど。

 問題は、そのわずかに下。具体的に言えば、お尻の下から艶やかな太腿の付け根あたりにかけて。

「……………、」

 再びそこを目にして、息が詰まって咽せそうになるのをなんとか堪える。
 とっくの昔に突っ込むことは諦めている、主人の寒そうな衣装……の、下半身部分。太腿から足のラインに沿って菱形に開けられ、肌が見えるそこ。

 そこから──美尻のラインがわずかに、ほんのわずかに見えている。

「……………」

 おそらく普段の私ならば、見なかったことにしたはずだ。しかし仕返しを画策している最中、しかも偶然にも眼前すぐそこで視界に映り込んでしまったのだ。
 こうなればもう気になって仕方がない。と言うより、これはわざとなんじゃないかって気もしてきた。主人ならやりかねないと言えてしまうのが怖いところだ。──そして、

「……………」

 わざと見せてるなら……触ってもいいということにならないだろうか。

 そもそもこれだけ露出度高い服を着ておいて、くつろぎ中とは言え無防備にそんなところを曝け出している彼にも非があると思う。
 それなら、目の前のそこに手を伸ばしても。
 ──その行為は罪とは、言わないのではないだろうか?

「………………」

 と、そこまでの思考の変遷をわずか一分足らずで終わらせ、私は少しだけ身を引きベッドに横たわるギラヒム様の方を見遣る。
 さっきまで寝転がりながら狭いだの何だの文句を言っていた割に、居心地が良かったのか今では眠たげにうつらうつらとしている。天下の魔族長も、眠気に襲われている時は隙だらけだと言う訳だ。

「────」

 私は覚悟を決める。
 きっと私に待つ未来はろくなものじゃないだろう。ここで大切な何かを失ってしまう可能性すらある。

 けれど逆に考えれば──こんな機会は、もう二度と訪れない。
 その確信が私を奮い立たせる。背中を押す。意志をより強固なものにする。

「────」

 私は息を止め、手を伸ばす。不思議とその指先は震えたりしない。強い意志が四肢と指を支え、目的地へと一直線に導くからだ。

 そう、私は確かにこの瞬間。
 揺らぐことのない意志が未来を拓くのだと、紛れもない実感を手にしたのであった。

 やがてそこに迫った私の人差し指と中指は、

「────ッ!!?!?」

 刹那の間を縫って衣装の開いた部分から侵入し、そこに──見えていた柔らかな肉に、触れた。

「……おぉぅ…………」

 触れたのはほんの一秒にも満たない瞬間だったと思う。悲鳴までは行かずとも尋常じゃない動揺を見せた主人を傍目に、私は手にした素晴らしい感触に女の子らしさのカケラもない嘆声をこぼした。

 一見筋肉を纏い硬そうに見えるそこは腕や腹部と同じくらいの触感を予想していた。が、意外にも弾力があって柔らかい。理想の筋肉がつき形の整ったお尻はしっかり柔らかいという話は本当だったらしい。
 頬や二の腕と同じ柔らかさかと言われればそれとはまた違って、言うなれば未知の幸福感を得られるというかあわよくばもう一回くらい触ってみたい種類の、

「リシャナ」
「は、ィッ────」

 瞬間。
 自身の指を眺め巡り巡っていた感動は──額ごと脳髄を撃ち抜く貫手突きにより断絶する。

 声すら出せず、一撃で吹き飛んだ思考と私の体。
 地に這いつくばって立てずにいる私の背を、主人の長い足が踵から踏んづける。

「……さて、」

 そこまでされ、彼の低く不自然な響きを帯びた声音を耳にし、ようやく私は己のしでかした愚行を自覚する。
 しかしそんなものを理解したところで末路は変わらない。彼から言い渡される宣告は、変わらない。

「──地獄を見る覚悟は、出来ていると見做していいんだろうなァ?」

 完全に目が覚めたどころか、秘めたる素までをありのままに曝け出し、牙が覗く凶悪な笑みを浮かべる私のマスター。
 それは間違いなく、今まで見た中で最上位に数えられる程に彼がブチギレた姿だった。

「た、たい、大変、申し訳、ございませ……まが……魔が刺して……」
「お前の愚行もそこまでくるといっそ清々しいなぁ? せめてものの情けで、遺言だけ聞いてやろうか? あァ?」

 踵でぐりぐりと背中を潰され、背骨とその先の内臓から聞こえてはいけない断末魔が聞こえる。そして皮肉にもその音と痛みが何か邪なものに捉われていた私を現実へと引き戻した。
 なんで、わたし、あんなに、愚かなことを、してしまったんだッ……!?

「……でも正直後悔はしてな、ぃぎゃうッ!!」
「なら生きてることを心の底から後悔させてやるよ。ご主人様のこの俺がなァ……?」

 おみ足で頭を踏まれ、辛うじて見上げた主人の冷え切った笑みが私をまるごと貫く。

 ──後の記憶はただただ曖昧だ。
 けれど指に残ったあの感触だけは忘れないようひたすらに足掻いたことだけは、鮮烈な経験としていつまでも残り続けていたのであった。



無双黄昏別色でいつだって見えてるのでやっぱりわざと見せてるんじゃないかと……。