ダン戦 | ナノ

( リクヤとアキト )


いつも通りの自室は相変わらず殺風景だ。
部屋には必要最低限のものしかな転がしてないのだから無理もない。
いつものように自室のベットに腰を掛け読みかけの本を手に取ると栞の挟まれた頁を開き視線を落とす。
本土の頃から愛用している栞を右手の人差し指と中指の間に挟み、縦に並ぶ活字をいつものように目だけで追う。
すらすらと読み続けるも読みにくい漢字に当たると眉間に皺を寄せ読み解く、これもいつものことだ。
ただ、いつもと違うことがひとつ。
普段は誰も使っていない筈の隣のベットに腰を掛ける人物がいる。
彼はなにをする訳でもなく目の前で普段と変わらない様子で本を読むリクヤを見ては俯き、再び見ては俯きを繰り返していた。


「どうかしましたか、谷下くん」


リクヤは本から視線を変えないままアキトに尋ねる。
するとアキトは口を開きかけたもののすぐに閉じてもごつかせる。
リクヤはアキトの仕草にまたかと思い本から視線をあげ、それをアキトに向ける。


「言いたいことがあるのなら言ってください」


口を開きかけすぐに閉じてはもごつかせるのは普段、リクヤには自分の意見を言わないアキトが言いたいことがあると言う合図。
所謂、癖と言うやつだ。
出会った当初こそそれがなにを意味するのかわからなかったリクヤももうアキトとは一年くらいのつき合いになる。
コウタを除く今までの警護役の生徒の中で一番、つき合いの長いアキトの癖は一通り覚えた。
アキトの次に長いシンの癖も一通りは覚えたのだから当然なのだろう。
しかし、それはシンとアキトも同じこと。
ただ、リクヤのそれをシンとアキトが口にしない為、リクヤに自身の癖を知る術はない。
それだけのこと。
ただ、そんなことは今のリクヤにはどうでもいいのだ。
目の前のアキトがなにを言おうとし言い出せないのか。
そればかりが気にかかる。
大したことではないだろうとわかっていても気にかかるのだ。

リクヤの視線と言葉を受けたアキトは口をもごつかせるのをやめて胸の前まで右手を持ってくるとその右手をぎゅっと握りリクヤをじっと見つめ口を開いた。


「あ、あの、…リクヤさん、…じ、自分は、…その、…えっと、…、」

「…?」

「…リ、リクヤさんのことが、…す、…す、きです、…っ!」

「…っ!?」


予想外の言葉にリクヤは目を見開いた。
そして、俯いてしまった。
アキトの口から放たれた好きの言葉が俯くリクヤの頭の中を反響する。
アキトは黙ったまま俯いくリクヤの姿をじっと見つめた。
その瞳は不安そうでしかし、強い意志が籠もったものだ。
リクヤは俯かせた顔をあげ、暫し、アキトの瞳を見つめた後に唇を小さく震わせながら口を開いた。


「真面目な貴方のことです、からかっている、…のではありませんよね」

「はい」

「わたしが好き、ですか」

「はい」

「わたしはね、谷下くん。好きと言う言葉の意味もそれが意味する感情もよくわかりません。それはわたしが貴方を好きになるのかも」


それでもわたしを好きでいられますかとリクヤが続けるとアキトは迷うことなくはいと答えた。
瞬間に感じた愛しくも切ない気持ちがなんなのか、今のリクヤにはまだ知らぬ気持ちだがアキトの言葉を信じようと思った。
信じたいと思った。


( では、わたしとお付き合いをしましょうか、谷下くん )
( は、はい!よろしくお願いします! )


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