ダン戦 | ナノ

( リクヤとアキト )


吐いた息の白さが物語る寒さに身を震わせる。

四月、季節は春。
とは言え、暦の上では春を迎えたもののいまだに身を震わせるほどの寒さは続いている。
リクヤはコートのポケットに手を入れてまだ人気のない商店街を目的もなく歩いていた。
ポケットの中にはくしゃくしゃのハンカチしか入っていない。

外出があまり好きではないリクヤだが時々は外に出る。
そうしているのは室内にこもってばかりいると父親に与えられた任務のことで頭の中がいっぱいになってしまうから。
それはとても辛くて苦しい。
自分にかせられた任務のために既に四人もの警護役の生徒をロストさせ、退学へと追いやった。
その現実が狭い室内ではリクヤを追い詰める。

歩き続けて数十分、リクヤはふと歩みを止めた。
純喫茶スワロー、そこの名物とも言えるチョコレートパフェの看板の前に見慣れた姿を見つけたからだ。


「谷下、くん」


呟きともとれる声量で名前を呼んだと言うのに呼ばれた本人はリクヤの声が耳に届くや否やぴくりと体を震わせるとすぐさまくるりと振り返った。


「わっ、リ、リクヤさん、」


お、おはようございます!と続けリクヤに向けて頭をさげたのは現在の警護役の生徒の一人、谷下 アキト。
リクヤはえぇとだけ返しそれに続けてなにをしているのですか?と尋ねた。


「え、や、あの、…じゅ、純喫茶スワローのチョコレートパフェが食べてみたいなぁ、と思っていまして」

「はぁ、…?」

「いや、あの、自分、は今まで食べたことがなくて、でも、アラタとユノが美味しいと話していたので食べてみたくて、…以前からキャサリンやユノたちが話していたので興味はあったのですが」


話しによるとアキトは以前から気になっていた純喫茶スワローのチョコレートパフェを食べるか食べまいか悩んでいたらしい。
食べればいいのに食べなかったのは値のはるチョコレートパフェはシルバークレジットの無駄遣いになるのではないかと言う考えからだった。
アキトはもしも、第三小隊の予算分のシルバークレジットが尽きたらコウタのシルバークレジットを使わねばならなくなることを聞いて思ったのだ、フェアではないと。
だからいざという時に自分のシルバークレジットを渡せるようにと最低限のもの以外は購入しないでいたらしく、おかげで今では随分とシルバークレジットが貯まっているようだがそれでもなお、使わずに貯めていたのだと言う。

リクヤはアキトの話しを聞くとため息混じりに口を開いた。


「食べればいいじゃないですか。第三小隊はそこまでシルバークレジットに困っていません」

「で、でも、…」

「なんなら、わたしも一緒にたべてあげましょうか?」


そろそろ、開店時間のようですしと付け足し純喫茶スワローを見つめるリクヤの姿にアキトはきらきらと大きな目を輝かせた。


「いいんですか?リクヤさん、…!」


大きな目をきらきらと輝かせたままアキトはリクヤを見上げる。
長い睫毛を揺らしながら期待の眼差しを向けるアキトにリクヤはえぇと返すと同時に純喫茶スワローの扉が開き中から顔を覗かせたマスターがいらっしゃいませと微笑んだ。
その微笑みにつられるようにリクヤが扉をくぐるとアキトはそれに続いた。
そして、リクヤとアキトは心地のよいクラシックに包まれながら純喫茶スワロー名物のチョコレートパフェと紅茶を頼んだ。
注文を終えるとアキトは満面の笑みを浮かべて有り難うございます、リクヤさんと言って頭をさげた。
その幸福せそうな表情にリクヤはほんの少しだけ幸福せを感じた。
辛くて苦しい任務から生じた負い目を忘れる程に。


( この幸福せはいいもの?それとも罪悪感から逃げる為のにせもの )


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