「ワイミーズ時代」-2P
「ああ……お久し振りです、メロ、ニア」
憧れの人は二人のすぐ目の前まで歩み寄って来ると、猫背を深め、静かな口調で語りかけてきた
「L、本当に帰ってきたんだな」
「ええ、メロ」
「あんたお得意の期待持たせだと思ってた」
「辛辣ですね」
Lは面食らい、聞き違えたのかと目を見張った
メロはそっぽを向いた
「ワタリは?」
「あ、はい、後から来ます。……」
Lは質問に答えた後、メロの背に隠れていたニアを首を傾(カシ)げるようにして覗き込んだ
「ニア、よくここまで登ってきましたね。偉いです」
そう言ってLが頭を撫でると、ニアは彼に遠慮がちな視線を送り、小さな口を開いた
「メロが…」
「おい!」
経緯を語り始めたニアの小声を、メロは大きな声で捻じ伏せた
「バカ、余計ことは言わなくていいんだよ」
説教じみた口調でニアを封じたメロに、事情を察したLは追究せずに黙って表情を和らげた
「メロ。体調が悪い時はニアのこと、頼みます」
「え?ああ…うん。まあ、あんたがそう言うならね」
渋々といった表情で言ってみせたが、実際はLから要望されなくとも日頃から体の弱いニアに対して、メロの気配りは成されていた
無論救いの手を差し出すか否かは別問題であったが、Lはメロがいつもニアの傍に「居る」ことを知っていた
「ありがとう」
そう言うと、だるそうにするメロの疲労を汲み取ってLは上から長い腕を差し伸べ、メロにのしかかるニアの体を抱き上げた
「さぁ、丘を下りましょうか。走れる子は、誰が一番に施設に辿り着くか競争です」
「競争、競争!」
「あのね、足が一番速いのはメロだよ」
「違うよ。こないだの駆けっこの時はマットがとっても速かったんだよ」
子供たちが騒ぎながら丘を駆け始めた
隣を見れば、なかなか思い通りにいかない帰郷に嫌味を刺しながらも寄り添って歩くメロが居る
そこには変わらぬ静穏な日々があった
髪を梳(ト)き透かして流れてゆく故郷の優しい風にLは穏やかな顔で目を細め、勾配の先に佇む懐かしいかつての我が家を見下ろした
ウィンチェスターの町は間も無く春を迎えようとしていた
ワイミーズ時代断片
拍手部屋掲作品
加筆修正180513(同日サイト掲載)
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