「夜明け」-5P

僕は目の前の神妙な竜崎の表情を包むように穏やかに微笑んだ

「月君……」

「ん?」

「ここから日の出が見えるんです」

「この公園から?」

竜崎は僕から離れ、草を掻き分けて茂みに入っていき、その先に広がった無数に連なる家々の灯りを眼下に望んだ

「へぇ…すごい眺めだな。こんな所があったのか」

僕はドーナツの紙袋を竜崎に返し、膝を抱えて斜面に座り込んだその隣で姿勢を低くした

しばらく続いた沈黙に、見やった竜崎の横顔はひどく物思いに耽(フケ)り、心を遥か遠くへ置き去りにしたようだった

「とはいっても日の出までまだ三時間ありますが」

「そうだな」

「………」

「竜崎寒くないか?」

「…はっきり言うと寒いです。私、寒いのも暑いのも苦手です」

「ほら、手を出せよ。僕は体温が高いから」

僕が手を差し出すと竜崎はそれを横目で受け流し、ジャケットの襟を立て、ファーで口元を覆い隠した

「…変です。真夜中の公園で、男二人が手を繋いで夜景を見るなんて」

少々腹を立てたように、紙袋の中のドーナツを掴んで口につめ込む

「強がるなよ、寒いんだろう?お前がそんなに体温が高くないのは知ってる」

「結構です。月君は自分が繋ぎたいだけです」

「それも当たってるけど、」

「放してください、触られるのは好きではありません」

「それも知ってる。僕はお前をことなら何でも知ってる」

「それは嘘です、私の全てなど知らない」

僕は構わずに、竜崎の冷たい手を強く握り締めた

まったく

口を開けば言い合いになる

まるで鏡に映る自分との決着のつかない攻防だ

「いいから来いよ」

腹だたしくなり、僕は掴んだ手を引っ張り、バランスを崩した竜崎を体を抱え込むように抱きとめた

「ライッ、」

竜崎は咄嗟に声を上げたが、強く力を込めたことで語尾を詰まらせた

込み上げる内心の切なさを悟られぬように顔を竜崎を首元に強くうずめて歯を食いしばる

分かっている

一度は断られた僕が話を切り出しやすいだろうと踏んでそれとなく電話をかけてきたこと

訪れたことさえないだろうこの公園の一角から日の出が望めること

どうやって調べたのかは知らない

そんな素振りを見せさえしない

そうして垣間見るお前の優しさが僕を真実の愛へと導いてきた



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