※夢主はデフォ名です





 居残り練をしてたらそろそろ帰れと体育館を追い出された。仕方ねえから部室で着替えて校門に向かうと、めぐを見つけた。校舎の玄関口、電気はもう消えて寒い場所で壁にもたれて本を読んでいた。

「影山、ちゃんと雪見さん送れよ?」

 自転車の日向と別れて、めぐに近づく。

「ずっとここにいたのか」
「十分くらい。さっきまでは図書室。そろそろ飛雄が帰る頃かなって」
「ここで読んでたら目ぇ悪くなるだろ」
「それ、医学的な根拠ないよ」
「そうなのか?」
「まあ、目疲れするから良くないことなのは確かだけれど」

 めぐは本を閉じて鞄に入れる。
 最近は前みたいな読み歩きをしなくなった。
 いいことだと思ってたら、めぐが自分の手に息を吐く。むき出しの、白い手に。

「手袋は?」
「持ってない。本、読みづらくなるし」

 俺は左の手袋を、めぐの左手にかぶせた。
 めぐはその手を軽く握って、また開く。

「ぶかぶか。飛雄の手はやっぱり大きいね」

 小さく笑うめぐの右手を俺の左手でつないで、ポケットに入れる。

「飛雄の手が冷えるよ」
「すぐあったまる」
「――ありがとう。あったかい」
「ん」

 引き寄せると、めぐの匂いが近くなる。ずっとかいでいたくなる、遺伝子の匂い。

 冷たい風に押し出されて、俺たちは学校を出た。

「お前、何で俺を待ってたんだ」
「飛雄に聞きたいことがあって。誕生日、何が欲しい?」

 めぐが言った。誕生日。そういえば、もうすぐだ。
 欲しいものはいくつかある。新しいシューズとか、トレーニング道具とか。
 でも、めぐに頼むのは違う気がする。

 だから「何も」と答えかけて、思いついた。

「めぐが欲しい」
「私は物じゃないよ」
「めぐと一緒にいる時間が欲しい」

 めぐは何度かまばたきして、「そんなのでいいの?」と首を傾げた。

「じゃあ、春高が終わったらプレゼントするね」

 今は時間がないだろうから、と言った。

 確かに俺もそうだし、めぐも忙しいことは知ってる。

 プレゼントが楽しみだと思っているうちに、めぐの家に着いた。

「またね。手袋、ありがとう」

 俺に手袋を返すめぐの手をつかんで、そのままゆっくり引き寄せる。
 めぐが抵抗しなかったから、そのまま顔を近づけた。頭と鼻が軽く当たった。

「いいか?」

 確かめていると、さらに冷たい風が吹く。

 冬はまだ、終わらない。

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