Novel
縁の目には霧が降る-傍目八目-

「ニファさんに質問です。リーベ・ファルケさんの欠点を教えて下さい」
「リーベさんですか? ……うーん、ぱっと思いつきませんね。あ、でも、強いて挙げるなら『お洒落に興味がないこと』! 服とか髪とか、磨けば光るのにもったいない! さっき食堂でリーベさんがご飯食べてる間に髪を編み込みにしたんですけれど、似合ってたでしょう? 兵士とはいえ女性なのでもうちょっとお洒落に力を入れても悪いことはないと思うんです。――ところで、どうしてそんなこと訊くんですか?」




「ゲルガーさんに質問です。リーベ・ファルケさんの欠点を教えて下さい」
「はああああ? リーベの欠点んんんん? 欠点だらけじゃねえかあいつうううう……さっきも俺の酒なのに『今日はこれだけです』って取り上げるしよおおおお……ちっくしょおおおおお……あいつの欠点は『酒を飲まないこと』だ! だからこんな酷えことが出来るんだ! そうだろ? お前もそう思わねえか? ――ところでお前、何でそんなこと訊くんだ?」




「ネス班長に質問です。リーベ・ファルケさんの欠点を教えて下さい」
「リーベならさっき厩で会ったぞ。あいつは世話して話しかけた分だけ馬たちがしっかり応えてくれることをちゃんとわかってる。馬なしじゃ壁外で俺たちに出来ることなんかねえんだからな、誠心誠意尽くして大事にしねえと。シャレットも懐いてるし――ん? 美点じゃなくて欠点? 何でお前そんなこと訊くんだ?」




「ナナバさんに質問です。リーベ・ファルケさんの欠点を教えて下さい」
「ん? リーベの欠点? そりゃあ色々あるけど……だからといって、悪いことばかりじゃないというか。長所と短所は紙一重、だっけ。そういう言葉あるよね。え? そういう話を聞きたいわけじゃない? わかってるよ。――ところで君、どうしてそんなこと訊いてるのか教えてもらっていい?」




「ぺトラさんに質問です。リーベ・ファルケさんの欠点を教えて下さい」
「え? リーベ? 欠点……とは違うけれど、もう少し自分のことを話して欲しいと思う時があるのよね。話したくないことを話してもらおうって思っているわけじゃなくて……私、リーベの家族のこととか何も知らなくて。遺書だって誰にも書いてないみたいだし。あと自分の気持ちについても……寂しい時や哀しい時は周りに言って甘えてもいいと思うんだけど……何だか私の願望になっちゃったわね。――ところで、どうしてそんなこと訊くの?」




「次は誰に訊こうか……。よし、モブリット副長にしよう。話したりチェスしてるところとかよく見るし、噂によると副長ってかなりあの人を可愛がってるらしいし」
「俺には訊かねえのか」
「うわ!? リヴァイ兵長!? え、あの、何が……?」
「『リーベ・ファルケさんの欠点を教えて下さい』だ」
「!? どうしてそれを……!」
「さあな」
「……あの、じゃあ教えてもらえますか? リーベさんの欠点を」
「欠点を知ったところで、お前は変わらねえよ」
「……え?」
「その欠点も含めて、あいつに惚れたままだと思うぞ」
「…………」
「あ? 何だ? 声が小せえよ」
「……どうして……そんなこと、わかったんですか? 誰にも、言ってないのに……こんな……」
「勘だな。――とにかくもうやめろ。お前がやっていることは無意味だ」
「それでも……このままで良いわけがないじゃないですか! この気持ちが報われることはない! だから、こうして……! 少しでも、リーベさんから気持ちが離れるようにしてるのに!」
「考えてみろ。自分の欠点を探る人間にうろつかれるあいつのことを」
「それは……!」
「お前は惚れたヤツを悩ませて苦しめる嗜好があるのか。悪趣味だな」
「ありませんよ! でも、じゃあ、どうすればいいんですか!」
「うるせえ、怒鳴るな」
「す、すみません」
「――はっきり本人に伝えればいいだろうが。それで済む話だ」
「っ、他人事だから兵長はそんなこと言えるんですよ! 『好きです』なんて言えるわけない! これで距離置かれたらお先真っ暗なんですけど!」
「何を伝えたところで、あいつはお前を否定しねえよ。それは確かだ。お前ならわかるだろ? あいつがどういう人間で、お前みてえなヤツに対してどんな言葉をかけるか」
「…………」
「どうだ?」
「……………………」




「お掃除完了! ではお茶にしましょうか、兵長」
「ああ。――リーベ、最近身の回りで気になることはねえか?」
「え? いえ、特に……そういえば最近、周りで私のことを訊いて回る新兵の女の子がいるみたいなんですけれど、彼女の目的は何でしょう? 話しかけようにも逃げられてばかりでなかなか見つからなくて。新兵向けの立体機動の特別強化訓練中は話すどころじゃないですし」
「そのうち相手から会いに来るだろうから、気にするな」
「そうですか? でも私、彼女と向き合えるでしょうか? 何だか私の良くない話を集めているみたいで……もしもいきなり罵詈雑言や苦情を浴びせられたらきちんと応じる自信が……」
「大丈夫だろ。――お前なら、あいつが一番納得する言葉を返せるはずだ」


(2017/05/23)
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