Novel
全員が一緒にいたがるだろう

 ハンジ分隊長が幹部会議にて没にされたという企画書を読みながら、私は思わず呻いた。

「うーん……これは……」

 企画書の内容は遺伝子が同一である個体を生み出す――『クローン技術』なるものの計画書だった。
 よくわからないなりにざっくりと説明すると、これがあれば優秀な兵士を意図的に次々生み出すことも可能になるのではないか、という内容である。

「…………」

 こんなことを考え付くなんて、ハンジ分隊長の頭脳が恐ろしい。そのうち巨人兵団なんてものを作ってしまうのではないだろうか。あの人の思考はとても常人に及ばないのだから。

「読み終わりました。お返しします」

 私は同じ部屋にいた兵長に声をかける。とはいっても、すぐ隣に座っているのだけれど。
 書類を渡せば、兵長は少し離れた場所にあるごみ入れにそれをぽいと投げ入れた。没にされた企画書とはいえその末路に物悲しくなる。

 書かれていた内容を思い出しながら私は言った。

「ちょっと怖い気もするし、何より難しい問題ですね。倫理的に問題があると言われたらその通りだと思いますし。あと理論は正しいとしても技術的には今の時代じゃとても無理ですよ」
「だろうな。それに同じ人間が大量にいるなんざ気持ち悪い」

 そう言い捨てて、兵長は私が淹れたお茶のカップに口をつける。

「でも結局は却下されたんですよね」
「ああ、俺も反対した」
「あ、やっぱりですか」

 例えば一人で一個旅団分――4000人分の戦闘力を持つ兵長が複数、或いはもっといるとすれば、巨人なんてすぐに絶滅して人類はあっという間に勝利してしまえるかもしれない。

 でも、私たちの戦いにおいて、その道を選ぶことはきっと正しくないのだ。

「…………」

 そう思いながらも、たくさんいる兵長を想像すると何だかおかしくなって私はつい笑みを漏らす。
 もちろんそれはすぐに彼に見咎められて、

「何だ」
「この技術が採用されていたら、兵長は間違いなくたくさん存在するんだろうなと考えてました」

 何と言っても人類最強なのだから。

「想像するな。――考えたくもない」

 空にしたカップを机へ戻し、兵長が顔をしかめる。

「諍いになるからな」
「え、喧嘩するんですか?」

 私だったら掃除や洗濯とか分担して協力するのに。

 そんなことを考えていると兵長が身体を倒してきて、私の太ももを枕にして寝転がった。

 それから呟くように言った。

「お前が一人しかいないからだろうが」


(2013/11/17)
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