Novel
天使不在証明
原因は猫だった。
ニファさんの預かった猫が調査兵団本部内を逃走、そして空き室へ入り込んだところを捕獲する際、暴れに暴れて近くにあったクッションを爪で引き裂いた。それで中に詰まっていた羽毛が一気に部屋中へ散らばってしまったのだ。
おかげで現場に居合わせた人間は全員羽根まみれ。もちろん私も。
ニファさんに何度も謝罪されながら暫定的に結成された猫捕獲班を解散して、一人残った私は部屋の掃除に取りかかろうと段取りを考えた時、本を抱えたハンジ分隊長が廊下を通った。
「どこの天使が現れたのかと思ったらリーベ? とんでもなく可愛いことになってるね」
「……私は天使じゃありません」
部屋に置いてある鏡を横目に眺めたけれど、分隊長の言葉に見当たる節はなかった。
「こんなに真っ白い羽根をたくさんつけてたらそう見えるよ」
そこで分隊長は部屋をぐるっと見回して、
「派手に散らかってるね。ニファが後で自分で掃除するって言ってたけど」
「ニファさんはお忙しそうなので、私が」
「大丈夫? 増援呼ぼうか?」
「いえ、一人で大丈夫です。ゲルガーさんがほったらかしていた急ぎの仕事も片付けたところですし」
とはいえ未だに宙を舞う羽毛の中で掃除するには骨が折れるので、部屋が落ち着くまでは外で待機と自分の身体についた羽毛を取ることにした。
「羽根が取れない……」
風の少ない日だから自分で払うしかなかった。立体機動装置で空を駆ければ簡単に取れそうだけど、そんな理由で装備することは出来ない。
一人で四苦八苦していたら気配がして、振り向けば兵長がいた。なぜか目を擦ってから瞬きを繰り返していた。何か異物が入ったのかもしれない。
「兵長? 大丈夫ですか?」
「いや……」
訊ねれば兵長はこちらを見て、私に近づいた。そして手を伸ばしたかと思うと、頭や肩についていたらしい羽根を取ってくれた。
「時々、お前が人間か疑わしくなる」
それなら一体私は何に見えるのか不安だった。
去年だったか、健康診断の時も似たようなことを言われた気がする。
「あの、兵長。私は人間です」
とりあえず明言しておけば、
「そうじゃねえと困る」
鼻を鳴らしてから兵長が言った。
(2017/01/05)