Novel
中学校へ行こう!
※巨人中パロ
簡単なあらすじや設定→こちら
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ぴぴー、と炊飯器のお米が炊き上がったタイミングで、ぴんぽーん、と玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
スリッパでぱたぱたと向かって扉を開ければ、眼光鋭いリヴァイさんがいた。
「おはようございます、リヴァイさん」
「リーベ。チャイムが鳴ったら相手を確認した後に解錠しろといつも言ってるだろうが」
「でも、こんな時間に来るのってリヴァイさんくらいじゃないですか」
ここは進撃中学校の下宿。隣の部屋に住むリヴァイさんは私よりも一学年上の先輩だ。
去年、私が入学した際に食費節約の重要性を説かれ、それ以来は晩ご飯を共にすることになったのだが、最近は朝ご飯まで一緒に食べることになった。どうしてこうなったと時々思う。作ることに張り合いが出るし、誰かと食べた方が美味しいからいいけど。
「で、お前は何で制服を着ているんだ。今日は学校じゃねえだろ」
「そうですね。でも、新入生の入学式を見に行こうかと思って」
靴を脱いでいたリヴァイさんが動きを止めた。怪訝そうな顔つきになって、
「入学式だと? お前、今年は二年になるだろうが」
「そうですけれど、去年はリヴァイさんに邪魔されて出席出来なかったじゃないですか。せっかくの行事なので参加は出来なくても見ておきたいんですよ」
話しながら出来立てほやほやの食事を並べる。今日は和食。白いご飯と具沢山なお味噌汁、鯖のみりん干しに玉子焼、ほうれん草のおひたしだ。
リヴァイさんが手を洗って拭いてから座布団へ腰を下ろす。
「あんなもん、出る価値はねえよ」
「それを決めるのは私です。とにかく行きますから。最上階に行けば窓から見えると思いますし」
いただきます、と二人で手を合わせてから食事を始める。お味噌汁に口をつけて、ほっと一息。
「リヴァイさんも制服着てますけれど、学校に何の用事ですか?」
「調査団三年の定例会だ」
「じゃあハンジさんやミケさんにも会えそうですね」
まあ、ハンジさんは同じ階に暮らしているので会おうと思えばいつでも会えるけれど。
「今朝のご飯はどうですか? お味噌汁にお豆腐とわかめ、入れすぎました?」
「いや、悪くない」
やがて食事を終え、二人で食器を流し台へ運ぶ。リヴァイさんが洗ってから私がそれを拭いて片付けはあっという間に完了した。
「鞄を取ってくるからお前も行くなら来い」
「はーい」
リヴァイさんが出て行った。私も出る支度をしようとエプロンを外せば、スリープモードにしていたパソコン(一昨年に商店街の福引きで当たった)からぴこーん、と音が鳴った。メールの着信音だ。
誰かと思えば『Kenny』からだった。私はケニーと呼んでいる。
『今日の22:00、第19地区の新しいバケモン倒しに行こうぜ!タイムアタックバトルだ!』
その文面に、私は記憶を探る。
「あー、そういえば最近また新規ボスが配信されたんだっけ」
世界に名を連ねる大企業ゲデヒトニス社が手掛けたオンラインゲーム『Titan Hunter』。Titanと呼ばれる怪物が跋扈する世界にあらゆる武器と装備で戦うハンティングアクションゲームで、ケニーはそこで活躍する凄腕プレイヤーの一人だ。
自分で口にするのもどうかと思うが、私もこのゲームの中で結構強い。大会が主催されると毎回上位に食い込むので、最前線に連なるプレイヤーの一人として認知されている。リアルでは誰も、リヴァイさんでさえ私がこのゲームをしていることは知らないけれど。話すつもりもないし。
ある大会の決勝戦でケニーと知り合ってからは時間が合えば一緒にTitanと戦ったり、同じ敵をどちらが早く倒せるか競ったり、よく遊んでいる。別に一人でだって遊べるし戦えるけれど、このゲームの真髄は協力プレイや対人戦にこそあるのだと私たちは知っている。
とはいえお互いにリアルは知らない。知っているのはアバターとハンドルネームだけ。ケニーが本名とは限らないし。
だからケニーは私が中学二年生だとは知らないし、私もケニーが何者かは知らない。ネットマナーのルールでリアルの詮索は互いにしないし。
私は手早く返信を打った。
『了解! 今日は新しい防具と武器を見せてあげる! 遅れたら置いて行くからね!』
送信出来たことを確認し、パソコンをシャットダウン。
鏡で身だしなみを最終チェックしてから通学鞄を手に家を出れば、リヴァイさんが待っていてくれた。
「お待たせしましたっ」
鍵を閉めて、一緒に歩き出す。
下宿の周りは数多のハンジさんお手製のトラップが多数存在している。入学したばかりの頃は恐ろしくてたまらなかったが、一年も経てば避けることに慣れてしまった。
そして最初はこのトラップが攻略出来るまで登下校を一緒にしてもらう約束だったけれど、今でもリヴァイさんは隣にいる。
落とし穴をぴょんと飛び越えながら私はリヴァイさんを仰いだ。
「私、もう一人でも大丈夫ですよ?」
「そうか」
こんなやり取りを何回かしても、結局毎日一緒に登校しているのでもういいかと思う。
「晩ご飯は何が食べたいですか?」
「今日はお前が決めて作る日だろうが」
「そうですけれど、私はリヴァイさんが食べたいものを作りたいんです」
会話をするうちに校舎へ着いた。もちろん巨人棟ではなく人間棟だ。下宿は学校の敷地内にあるのでとても近い。
途中、ナイル先生とすれ違った。
「おい、リーベ・ファルケ。お前に話がある。明日の始業式前に職員室へ来い」
「え、あ、はい。わかりました」
頷いてから、恐る恐る訊いてみる。
「あの……私、何かしましたか?」
「悪い話じゃねえから心配するな。じゃあな」
ナイル先生の背中を見送って、何だろうなあと首を傾げれば隣にいるリヴァイさんが不機嫌そうな顔をしていた。
「ろくでもねえ話かもな。行くのはやめろ」
「相手は先生なのでそういうわけには……それに私、去年の成績はリヴァイさんとハンジさんのおかげで伸びたんですよ? 特に校則違反もしてないし……あ、もしかしてスカート短いですか? 普通の長さだと思うんですけれど……」
軽く制服を持ち上げれば、リヴァイさんがちらっと私のスカート丈を見た。そのタイミングで校内アナウンスが流れた。
『まもなく入学式が始まります。生徒の皆さんはお弁当を持って校庭へ集合して下さい。繰り返します。お弁当を持って校庭へ集合して下さい』
お弁当を持って?
そのフレーズに疑問が浮かぶと同時に焦った。
「あああもう入学式が始まる!」
授業もないのにわざわざ学校へ来て目的を逃しては元も子もない。
その一心で、私は最上階目指して階段を駆け上がる――次の瞬間、ふわっと身体が浮いた。
「ひゃっ!?」
何事かと思えばリヴァイさんの腕に抱えられていた。お姫様抱っこだ。
「えええ!? リヴァイさん!? お、下ろしてください!」
「暴れるな。大人しくしてろ」
「スカート! スカートめくれます!」
必死に訴えれば舌打ちされて、体勢が変えられる。驚くことに片腕だけで私の身体を抱えられてしまった。太ももの裏に片腕を通されて、そこへ座るような体勢。腕一本なのにまるで不安感がない。安定していた。
でも、そういう問題ではない。
「わ、私、最近ちょっと体重増えたので……!」
「喋ってると舌噛むぞ」
何段飛ばしかわからないくらいの速度でびゅんびゅん視界が変わる。思わずリヴァイさんの首筋へしがみつく。高速と呼ぶより超速だ。あっと言う間に最上階だった。
すとん、と優しく廊下へ下ろされて、それまで抱きついていた密着感に今更どきどきしてしまった。慌てて離れる。
「ご、ごめんなさい。すみませんでした」
「行くぞ」
心臓を宥めながら校庭を眺めるのに最適な教室へ向かえば、見知った顔があった。
「ミケさんにハンジさん、こんにちは」
「あ、二人も入学式見に来たんだ? もう始まるよ。今年はどんな子がいるか気になるよね」
そう、今日はこのために学校へ来たのだ。
校庭を見れば、お弁当を持った新入生たちに先生たちがいた。キース先生が朝礼台に立つ。
「整列! 只今より第104回進撃中学校入学式を始める! 初めに、校長先生の言葉!」
その瞬間、凄まじい閃光と地響きが轟いた。50mの壁を超える超大型巨人――校長先生のお出ましだ。初めて見たわけじゃないけどやっぱり圧倒される。
すると、校長先生が壁を蹴破った!
「えええええー!?」
物凄くダイナミック!
こんなことしていいの!?
当然ながら校庭は新入生たちの阿鼻叫喚、悲鳴の嵐に包まれる。でもそれは壁が破られたせいだけではなかった。
穴から――無数の巨人たちがわらわら侵入して来たのだ!
「巨人だあああああ!」
「うわああああああ!」
「唐揚げ弁当がああ!」
そして巨人たちが新入生のお弁当を次々に奪って行く。容赦ない。ひどい。
「ひええええ……」
私は窓枠にしがみついて情けない悲鳴を上げてしまう。
『Titan Hunter』では似たような怪物をばんばん倒しているけれど、現実にあんなものを前にしたら恐ろしくて仕方ない。太刀打ちどころか何も出来ない。ゲームと現実は違うのだ。混合してはいけない。
だから、本当の『私』はちっとも強くない。
「……去年、私の入学式参加を邪魔したのは私のお弁当を守るためだったんですね」
「それがどうした」
「ありがとうございます。やっぱりリヴァイさんって優しい」
微笑んで見せると、窓の外から絶叫が聞こえた。
「やめろおおおおお! 俺の大切な、チーズハンバーグ弁当があああああ!」
顔を向ければエレンだった。
先月、学校前まで下見に来ていた男の子が叫んでいた。
見れば、校長先生がエレンのお弁当らしきものを食べてしまっている。
「……チーハン野郎が」
リヴァイさんが吐き捨てるように言った。
そこで私は閃く。
今日の晩ご飯はチーズハンバーグにしよう。
(2015/10/25)
-----巨人中アニメ化記念作品