Novel
だから彼女は翼を喪った
クルーガーさんとリーベさんがベンチに並んで座っていた。
いつの間にああして話すような関係になったんだろう。
当然気になったオレが近づけば、リーベさんは隣に置いていた紙袋を開けて、中にあるパンをたくさん見せてくれた。
「ファルコ、食べる?」
「いいの? でも、オレ……」
今は金を持ってない。
リーベさんのパンは今や売り物だから、簡単に手が出せない。
言い淀んでいると、
「ほら、端っこがちょっとだけ焦げてるでしょ。商品に出来ないパンだから、それで良ければ食べて」
言われてみれば、確かに端っこが焦げてる。でも、これくらい何でもないのに。
売り物にするのは大変だなあと思いながら有り難くもらうことにして、早速頬張る。胡桃が入ったパンだった。
「ありがとう、リーベさん」
「どういたしまして。――じゃあ私、もう行くね」
リーベさんが立ち上がって歩き出したところで、
「リーベさん」
クルーガーさんが呼び止めた。
「あなたはずっと正しかったし、今も間違っていないと俺は思う」
「……私はずっと正しくなかったし、今も間違っていると思うよ」
リーベさんがクルーガーさんを真っ直ぐに見つめる。
「――それでも、この道を行く」
迷いのない、その瞳で。
クルーガーさんはリーベさんを見つめ返して、
「最後に一つだけ教えてください。――何を、考えているんですか?」
「私は自分のことしか考えてないよ」
「嘘だ」
「……嘘をついて、どうするの」
困ったように微笑んで、リーベさんは今度こそ行ってしまった。
二人は何の話をしていたんだろう。
気になったけれど、聞けるはずがなかった。
(2018/11/05)