そして考えた。
その力があれば父を救うことが出来るだろうか、と。
それが叶うならば、俺は今ここにいないだろうが。
そんなことを考えていると、リヴァイが窓の外を見ていることに気づいた。
視線の先を追えば、立体機動の訓練風景――リーベとアンヘルが二人乗りで宙を舞っていた。アンヘルの重心移動が危なっかしいが、それをリーベがレバー操作で器用にカバーしている。
「…………」
リヴァイを横目で伺えば、その眉間の皺は普段以上に深いものとなっていた。
リーベが新兵の頃から、リヴァイは彼女へ深い情を抱いている。口にすることはなくても、眼差しでわかった。その情がどのような類のものなのかは判別しかねるが、もしかしたら――
「リーベが過去の時代に生きることを選べば戦力が減ることになる。――エルヴィン。お前、最近あいつを重用して壁外の作戦だの組み始めたのに残念だったな」
そう話すリヴァイの表情は変わらない。
俺はもう一度、リーベとアンヘルへ視線を向けて、告げる。
「彼女はこの時代を離れない」
「根拠はどこにある」
「この時代に残る我々を否定することはしないだろう」
それは優しさとは異なる在り方だ。
故に、
「命じれば、話は別かもしれないが」
過去を変える云々は不可能に近いらしいが、少なくともこれから歩む未来は変化するだろう。リーベがいなくなれば、リヴァイが思い煩うことはなくなる。そうなればこの男は十全に力を果たすだろう。今までは何一つ問題なかったが、これからも同じだとは誰にもわからない。
「お前は、命じるのか」
そうだと俺が答えれば、リヴァイはどうするだろう。
従うだろうか。それとも――
「まさか。不確定要素が多過ぎる。それに、任意の時代と場所へ行けるかどうかもわからない」
リヴァイがやっと俺を見る。まるで心の内を探るように。
悟られないように努めて、笑い返すことにした。
「――それに、リーベの真価が発揮される場所を私は知っているからな」
そこで扉がノックされる。モブリットに呼ばれて、俺は部屋を出た。
(2019/09/18)