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▼ 夜が明けるまで居ていいよ

 まだ夜明けでもないのに目が覚めた。それと同時に違和感があった。

 なんか、狭い。
 ちょっと、苦しい。

 呪術高専内の寮にある自室で眠ったはずなのに。

 目を開けて確認すれば、ベッドの上にある私の身体は壁にむぎゅっと押し付けられていた。五条くんの身体によって挟まれる形で。

「…………」

 どうしてこんな状態に。私は一人で寝たはずなのに。
 それに部屋にはちゃんと鍵をかけていたんだけどな。なぜ侵入されているのか。まあ、五条くんにできないことの方が少ないから考えても仕方ないだろうけど。

 だから重要なのは「どうやって?」ではなく「なぜ?」ということ。

 とりあえず、と五条くんの気持ちよさそうな寝息を聞きながら、深呼吸。

「とうっ」

 目の前にある壁を利用して、全身の力を込める。コツは呼吸の流れに従うこと。そこから一気に五条くんの身体をベッドから落とした。

「おわっ」

 五条くんの身体は無様に床へ落ちる――ことはなく、宙に数秒留まってから、すとんと床に降りた。無下限呪術を使うのはずるい。床へ叩き落としたかったのに。

「何すんだよ」

 あくび混じりに咎められたけれど、そんなのこっちのセリフだ。

「ここは私の部屋で私のベッド。なのに壁と五条くんの身体でサンドイッチされて、狭苦しくて寝られない。そんなのおかしいでしょ」

 何でここにいるんだと訊ねれば、それに答えることなく五条くんが私のベッドの中へもぞもぞと戻る。

「ちょっと」
「もうサンドイッチにしねえから」
「それだけの問題じゃなくてね」
「何?」
「えっと、狭い」
「我慢して」
「はあ?」

 何で私が甘んじなければならないのか。

 納得できずにいると、また寝息が聞こえ始めた。

「はあ……」

 ほんと、私は怒っていいと思う。

 付き合ってもいない男が私のベッドを我が物顔で使うこと。五条くん、完全に私を舐めてる。だって硝子にはこんなことしないでしょ。

 ため息をつきながら五条くんの顔を眺めると、ひどいクマができていた。綺麗な顔の肌もちょっと荒れている。

 忙しいと、余計なこと考えずに済むもんね。
 眠れないと、余計なことを考えちゃうもんね。

 きっと、時間が必要なんだと思う。これからやるべきことを見据える前に、体勢を整えるための時間が。

 夜明けはまだ遠い。なのに私はすっかり目が冴えて、もう眠れる気がしなかった。だからベッド使用料に何をお願いしようか考える。対価なしにこんなことを許すほど仲良しでもなければ、都合の良い人間になりたくはないから。

「……名門ホテルのスイーツ・ビュッフェ、連れて行ってもらお」

 七海くんも一緒に。
 硝子も来て欲しいけど、甘い物好きじゃないから嫌がるかな。軽食もあるはずだから来て欲しい。
 みんなで美味しいものを食べよう。

 だから、五条くん。もう少しここにいてもいいよ。


(2023/08/27)


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