prologue
 もしも私がこの時代に生まれなければ何か少しでも違っただろうか。

 今の時代ではなく、未来――或いは過去の時代に生まれていたなら。

 私はどんな人生を歩めるだろう。




 そんなことを考えながら歩いていた。身体中の痛みに堪えながら歩いていた。手にはたくさんの本を持たされて。重い。前もほとんど見えない。腕に力を込める。また身体のあちこちに痛みが走った。思わず顔が歪む。

「う……」

 ぐっと耐えて、たくさんの本を抱え直した。明日から始まる訓練兵生活。その座学に使用する教材らしい。兵士とは身体を動かすばかりだと思っていたから意外だった。

 どうしよう。たったこれだけのことで身体が痛むなんて。早く、怪我が治るといいけれど。

 その時、遠くで時間を示す鐘が鳴った。明日からはこの音を聞きながら過ごすのかと思えば、

「え?」

 ふいに身体が前へ傾く。足場が、なかった。

 階段があったらしい。前が本で見えないからわからなかったのだ。

 気づいた時には何もかも遅くて、見事に転落した。

 身体が落ちていく。

 視界が回る。

 痛い。


(2015/05/21)
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