まだ俺がついてないと駄目だなお前は
「あちゃー……」
私は今、立体機動の試験中に見事にバランスを崩して逆さまにぶら下がっている。とても無様だ。
上位成績者に名を連ねることは出来なくても日頃の成果くらい出したいのに、こんなことになってしまった。
地上には手元のボードに何やら記入している教官がいる。きっと私は最低評価だろう。あーあ。
「……っ」
身体が沈む感覚がした。見れば崖に刺した部分が外れそうになっている。
次のアンカー出さなきゃ。
このままじゃ落ちちゃう。
つまり――死んでしまう。
さすがにそこまでは投げやりになれなくて、またアンカーを発射する。慣性を利用して崖の上まで一気に登りきる――つもりだった。
プシュッ、と嫌な音がした。まさかのガス切れだ。
嘘。そんな。
目標地点は、すぐ目の前にあるのに。
でもだめだ、届かない。
伸ばした指先が、宙を掻いた。
私は――落ちてしまう。
絶望に目の前が真っ暗になった瞬間、
「!」
がしっと力強い腕が私の手をつかんだ。
「え? ――ぅわっ」
さらに物凄い力で身体が引き上げられた。
次の瞬間にはもう崖の上に寝そべっていて、目の前に広がるのは青い空。
そして――
「おい、大丈夫か?」
「ライナー……」
104期訓練兵にとって頼れる兄貴分、屈強な男の代名詞であるライナー・ブラウンがいた。
「ありがと、大丈夫」
何とか笑ってみせてから、ついため息が漏れた。
いつも彼に助けられているなあと思ったのだ。
「ライナーがいないと私、だめだな」
いつまでもこのままじゃいけないと思うのに。
するとライナーが、
「ああ、まだ俺がついてないと駄目だなお前は。――だが、それでいいんじゃないか?」
「何言ってんの、そんなの駄目だよ」
「何が駄目なんだ」
心底不思議そうに私を見るのでつい目を逸らす。
「だ、だって、その……迷惑じゃない?」
「迷惑なもんか」
「でも、私いつも頼りっぱなしだし」
「そんなことは心配するな」
ライナーは当たり前のようにそう口にして、大きな手でぐしゃぐしゃと私の頭を撫でてくれた。
その感覚が嬉しくて、つい頬が緩む。
「ありがとう、ライナー」
あと少し、優しくて頼もしいこの人に甘えさせてもらうことにしよう。
力強い手が「それでいいんだ」と言ってくれたような気がした。