ああいう男が好きなのかよ
「なあ、お前の好きなヤツ教えろよ。それを聞かねえと俺はいつまで経っても部屋に戻れねえ」
「……突然やって来るなり勝手なことを言わないでくれるかな」
私は座学の課題をしながらそばで仁王立ちするエレンを睨んだ。
話を聞けば104期男子たちに『同期女子の誰かから好きな人を聞き出すこと』という罰ゲームが科せられたらしく、エレンは私のところへやって来たとのことだった。
「何で私なの? ミカサやアニとかクリスタの好きな人を聞いた方が需要あると思うけど」
周りを眺めるが、珍しいことに彼の幼なじみ二人は近くにいない。
「いいから早く言ってくれよ」
「質問に答えない上にそれは人にものを聞く態度じゃないね」
私が座学一式を片付けて席を離れようとすると、
「頼むから、この通り!」
両手を合わせて頭を下げられた。
この人は巨人以外のことにも一生懸命になるんだなとため息をついて、私は譲歩することにしてあげた。
「仕方ない、教えないけどヒントをあげる」
「よし、来い!」
ぐっと拳を握って、エレンが目を輝かせた。
私は考えながら口を開く。
「成績はいつも上位に入ってるかな。すごく目的意識が高くて。努力家なんだよね」
「もう少しヒントくれ。出来たら外見の情報」
「目つきが凶悪で、皆はよく悪人面とか言うけれど……私はかっこいいと思う」
「それって――」
ものすごく嫌そうな顔をされた。
「ジャンかよ。馬面じゃねえか。お前、ああいう男が好きなのかよ。趣味悪いな」
「……エレンは仲が良くないからそう思うんじゃない?」
するとエレンはむっとしたように、
「俺は悪くねえ、あいつが突っかかってくるんだ」
「喧嘩はだめだよ、怪我したら大変でしょ」
私がそう言えば、さらに顔をしかめた。
「それはジャンが?」
「違う。エレンがだよ」
私は今度こそ腰を上げる。そして席を離れれば、ぐいっと腕を掴まれた。
「ちょっと待て。……は? 俺?」
「うん、そうだよ」
「でもお前、ジャンが好きなんじゃねえの?」
エレンの言葉に私は首を振った。
「それはエレンの勘違い。私はそんなこと言った記憶ないんだけれど」
「それなら……つまり……」
「じゃあねー」
私は掴まれた腕をそっと外して、ひとり歩き出す。
「あー、あそこまで言うつもりなかったんだけどな。でも勘違いされたままは嫌だったし……うん、エレンがわかったらその時はその時。仕方ない仕方ない」
背後から走って追いかけてくる足音に気づくまで、あと少し。