140000企画 | ナノ


バカだな、お前だからだよ

 ラガコ村はいい村だ。

 だから――

「えええええー!? 訓練兵になるー!?」

 こんなにいい村を出て行こうとする人間の気が知れない。

「嘘でしょコニー! 信じられないよちょっと!」

 私は思わず幼なじみにしがみつく。

「何で!? どうして!?」
「決まってるだろ、村の連中を見返してやるんだ!」
「み、みんなコニーをからかってるだけじゃない。本気にしなくても――」
「『お前みたいなチビに兵士は無理だ』って言われたんだ、黙ってられるかよ」

 確かにコニーは同世代の男の子と比べると背が低い。でも、運動神経も身体能力もかなり高い。特にその小柄な身体を活かした小回りな動きが得意だ。
 だから、村のみんなの言葉なんて気にしなくて良いと思うんだけどなあ。

 コニーの力説は続く。

「だから目指すのはただの兵士じゃない、俺がなるのは憲兵だ!」

 私は目を丸くした。

「内地で暮らす特権階級に? ものすごく優秀な人しかなれないんだよね?」
「ああ、必ずなってやる! それでこそあいつらを見返せるってもんだろ?」

 私はため息をつくしかなかった。
 やると決めたら曲げないんだよね、コニーって。
 だから、何を言っても仕方ない。

「コニーが兵士になって、さらに憲兵になるのなら」
「ん?」
「寂しくなるなあ……」
「どういう意味だよ」
「わからないの? 本当にバカだねコニー」

 私はゆっくりと説明する。

「コニーがラガコ村からいなくなっちゃうのが嫌だってこと」
「だったら――」
「だから私は内地にいることにするよ」
「……は?」

 ぽかんとするコニーを前に私は続ける。

「私、内地で有名なパン屋さんに奉公させてもらうことにする」
「何でパン屋?」
「コニーと同じだよ、私の作るパンをいつも『不味い』って言う村のみんなを見返すため! 最初は何も出来ないだろうけれど、頑張るよ私」

 コニーは少し黙り込んでから、

「……なんだ、お前もラガコ村からいなくなるんじゃねえか」
「そうだよ。あーあ、こんないい村を出て行く人間の気が知れないよね」

 それから今度は二人でしばらく黙り込む。

 どこかの家から夕食の匂いがして、早く帰りたいような――もう少しコニーと一緒にいたいような。

「――いつか、さ」
「え? 何?」

 私が聞き返せば、

「いつか、戻って来ようぜ。二人で、この村へ」

 村を眺めながら私は訊ねることにする。

「それってさ、私が将来、内地で人気パン屋の看板娘になる予定だから言ってくれるの?」

 するとコニーは笑った。それからはっきりと言った。

「バカだな、お前だからだよ。ラガコ村で泥だらけになりながらいつも笑ってるお前だからだ」

 私たちの間を穏やかな風が吹く。

 ああ、本当にラガコ村はいい村だ。

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