優しい顔を



「クザンか...。」
「お久しぶりです。先生。」
 久しぶりに顔を合わせた恩師は昔とはずいぶん様子が違った。

「悪いがとまらねェぞ、俺は。」
 シェリー酒の緑の瓶を揺らしながら恩師はそう俺に告げる。
 そりゃァ、あんたの身の上話を知ってる身としちゃ、わからなくもないが...あんたはそんなに、弱い人間だったかねェ。
「らしくねェからよォ。」
 昔、どんなに足掻こうと追いつくことの出来なかったその背中は、あんなにもデカかったのに。今じゃまるで手負いの熊のようじゃないか。周りの人間がいるのも気にとめずその爪で切り裂いて。殺さずのゼファーはどこにいった?
「.....。」
「死ぬつもりですか。」
 ゼファー先生の返事はない。やはり、なるほど。死んでいった教え子たちにお前らの無念を晴らすと、自分ももうすぐ共に眠ると、そう伝えにきたのだろう。
「あんたの目もずいぶん曇っちまったなァ....。」
「なに、それでも俺のやるべき道は見えてる。それでいいじゃねェか。」
 俺だって、海賊のいない世を悪いとは言わない。しかしあんたの方法じゃあ、平和の名を掲げるにはあまりにも血なまぐさいじゃないか。
「先生、屍の上に乗せる平穏な海ってのはどんな色がするんでしょうかねェ。」
「今よりはずっとマシだろう。俺は信じるよ。」
 この人の信念とやらは誰が何を言おうともう1ミリとて揺らぐことはないようだ。
「さァ、行け。今度会ったら酒でものもう。」
 お前を殺したくはない、と言葉にならずとも聞こえた。彼のほうから少しばかり殺意が漏れ伝うのも感じた。
 咄嗟に、俺も臨戦態勢をとる。
 このまま冷気を纏った手を振り上げればきっと戦うことになるだろう。それは俺の本意ではない。けれどこの人が死ににいくのを見過ごしてもよいものか。
 ふいに先生は視線を後ろへ逸らした。その先、少し離れたところから彼の教え子2人とスズが黙ってこっちを見ていた。
「....クザン。お前、やっと一人、大事にする奴が出来たならそいつをしっかり守れよ。俺なんか気に掛けるな。」
「.......。」
「お前は、俺と同じ轍を踏むなよ。決してな。」
 その時、ふと見せた彼の笑顔は俺が憧れた昔のままだった。
 
(かっこいいなー、もー....。)


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mokuji

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