6.5






写真などというのは結局代替物でしかない。たかだか一枚の紙の上に姿を写して、けれど頭に思い描くよりもずっと鮮明な彼の姿は、妄想をより加速させていく。
様々な場面のものを撮ってきた。クラスの集合写真の切り抜きなどもあるけれど、それ以外はほとんどが盗撮と呼ばれるもの。彼の視線はこちらを向いていなくて、ぼんやりを虚空を眺めていたり、誰かと談笑でもしているのか微かな笑みを浮かべていたり。決してカメラのことには気づいていない、その無防備さが、彼の欠点であり魅力であると思う。
教室で居眠りしている写真。当てられて慌てて立ち上がる写真。昼食を食べている様子。帰宅中の気だるげな背中。靴を脱ぐ仕草。風呂場で服を脱ぐ姿。
一枚もう一枚とめくっていくたびに胸の内に燻る熱は燃え上っていくようで、知らず知らずのうちに口元は笑みを履き、呼吸は浅くなる。
彼の姿を見るだけで興奮する。決して明かすことはできないけれど、間違いない本音だ。
夢にとろけたような瞳も、黒髪の隙間から覗く肌も、掠れた低い声も、すべてがすべて胸を焦がすようだ。
気付けば、写真が汚れてしまっていた。柔らかな笑顔で誰かに話しかける顔に、汚い欲望がこびりついている。それがまた何とも言えずに綺麗で、早まるばかりの鼓動がおさまることはない。
彼を汚してしまった。大切な、綺麗な彼を汚してしまった。たまらない快感が押し寄せる。
指先ですべての写真に汚れを引き延ばしていく。顔も体も、彼の全身が汚されていく。想像の中の彼が、手の届かないほどの高さにいて眩しくて眩しくて直視もできなかった彼が、足元に落ちてきたような高揚感。そしてその想像は、現実になるのだ。

「あと、すこし」

呟いて、写真を封筒に詰めた。この狂おしいほどの愛情を彼に伝えなければならない。けれどまずは、写真を現像するところから。パソコンに保存されたデータは、色あせることなく彼の表情仕草の一つ一つを鮮明に映してくれる。
それでも、本物がほしいのだから仕方がない。
ディスプレイに唇を落として、何度となく口にしてきた彼の名前を、もう一度呼んだ。





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2014/02/12

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