つまり、そのすべて ある晴れた日のこと、なんてありふれた言葉で表されるであろう放課後のことだった。 「なあ、お前は俺なんかのどこが好きなんだ?」 至極どうでもいいという風を装っているくせに目を逸らしながら、彼は言った。 SOS団副団長兼超能力者である僕と、SOS団雑用兼……、いや、何も兼ねていない一般人である彼は、恋人同士だ。そろそろ付き合いだして半年になる。いい加減互いに余裕も出来てきて、程よく気兼ねしない関係を築いているところである。 僕は団の女性陳にからかわれてしまうくらいに彼のことが好きだ。そして彼も、僕と同じくらいとは言わないが、好意を抱いてくれていることは知っている。なので何かを不安に思っているわけではないのだろうが。 まさか、こういう質問を受けるとは思っていなかった。 トランプを揃えていた手を止めて首を傾げてみる。彼は変わらず俯いたままで、けれど少し赤くなった耳はよく見えた。 「どこが、ですか。しかし、僕が貴方を好きなのは決定事項なんですね」 「当然だろ。それとも何か、今まで散々人を好きだの愛してるだの言っていたのは全て嘘だとでも言いたいのか」 「滅相もない。僕が貴方を好いていないことなどありえません」 なら早く言え。 じとりと短い髪の間から覗いた瞳がそう訴えてくる。 勝手で自由な人だ。そして、それさえ愛しさに変えてしまえる自分の頭は大概愉快だろう。 しかし、はて。僕はこの人のどこがそんなに愛しいのか。 例えば、その声はどれだけ離れた場所にいようとも胸に響く音だ。皮肉ったり相手を諌めるときでさえ、心の柔らかい部分を撫で付けるような。 それと、瞳だろうか。覗き込んでも底の見えない深海のようなそれは、心地よい畏怖と歓喜を与えてくれる。知性と理性の篭った視線は、安心を運ぶ。 もちろん、あまのじゃくな性格も好きだ。誰にも懐かない猫のようでいて、人の傍にいることを幸福と思ってくれる。力を分け与えることに疑問を持たない。 うん、好きだなあ。 「なんだそれ」 呆れたような声は気にならない。聞いてきたのはそっちでしょう、なんて、気まぐれなこの人には通じないのだから。 子供の純粋さと、大人のうたぐり深さを兼ね備えた表情で、こちらをじっと見詰める。可愛い、と思う。さっきの答えの中では言わなかったけれど。 いつの間にか机に伏せられたトランプを指でいじくりながら溜め息を吐かれた。何が気に入らないのだろう。 「なんつーか、聞くんじゃなかったと思った」 「どうしてですか。僕ならもっと語れますよ?」 「……え」 「一つ二つではありませんからね、貴方の魅力は」 むしろ魅力しかないのではないかと思う。嫌いなところもないし、というか少々気になる部分があってもそれも含めて好きだなんて考えてしまう。 ぽかんとこちらを見るその表情さえ好きだ、なんて。 「その短めな髪も意外と撫で甲斐があって好きですし、結構白いうなじなんて噛み付きたくなります。誰にでも優しいところは誇らしささえ覚えますね。それから子供に向けるときの笑顔は、殺傷力抜群ではないかと」 考えるまでもなく今までの色々な彼が浮かんできて、何だか嬉しくなってくる。僕の中にある彼はここまで鮮明で、その全てが愛おしい。 ああ、目の前のこの人に、どうやって伝えればいいのだろう。不安がることなんてないんだと。そのままでいてほしいのだと。 疑う余裕なんてなくなるほど、僕に溺れさせられたらいいのに。 「ねえ、すきですよ」 知ってる、なんて、貴方はまた僕を受け入れてくれるんだ。愛おしさしか感じないその全てで、優しくこの想いを抱きしめて。 赤くなった頬に口づけたら、頭を殴られた。それさえも嬉しいのだと言ったら、貴方はまた笑うのだろう。 だから離せなくなるなんて、きっと知らないまま。 END. |