捕われたと知る 駐在さん×高校生。R12くらい。 「いいですか、抵抗なんてしたら署に突き出しますからね?」 にこり、と老若男女問わずくぎづけにしそうな表情をされ、俺はこっくりと頷いた。正直、警察がどうこうよりもこの男自体が恐ろしくて仕方なかった。 抵抗だって? させるつもりもないくせにどの口が言うのだ。遠慮会釈なくのしかかられた足は少しも持ち上がらず、冷たい床に押し付けられた腕はすでに血の気がない。細いように見えるのに、どこにそんな力持ってやがんだこいつは。 後悔は尽きない。 ちょっとした、しがない出来心だったのだ。ちょうど一週間前にチャリを盗まれたばかりで、帰ってくる気配のない愛車に俺は相当苛立っていた。長い時間登下校を共にした相棒だ、思い入れだってそれなりにある。頭にきていたし、むしゃくしゃしていた。 そんなときに目に入ったのは、無防備に置いてあった真新しい自転車。それを見たら無性に手を出したくなってしまって、気付いたら跨がって漕ぎ出していた。 他の人もやってるんだから。自分だけが被害を受けるなんておかしい。そういう考え方はまかり通らないことなどぶっ飛んでいた。いけないことをしている自覚はあったのに、自分が情けなくて泣けてきそうだ。 罰は、すぐにやってきた。その自転車の持ち主は、なんと所謂お巡りさんだったのだ。即見付かり、青い制服を見たときは信じられない気持ちでいっぱいだった。自分が悪いことは十二分に分かっているが、この仕打ちはどういうことかと思ってしまう。 これだけでも相当のショックなのだが、そのまま交番に連れて行かれた俺は更に世の無情さをより味わうことになったのだ。その警官に脅迫紛いのセクハラをされているのだから。 固い床の感触を背中に感じながら、嫌に冷えた指が腹を撫でるのを我慢する。くすぐったい。気持ち悪い。遮断した視界では把握できないが、乱れた呼吸が唇に触れる気配がして吐き気を催しさえしそうである。 はだけられたシャツは体を隠す役目を果たしておらず、情けなくも腕に引っ掛かっているのみだ。暖房のよく効いた部屋だが、肌が粟立つほどに寒い。 「ふ、ぅ…」 名前も知らぬ男の指が、脇を掠りつつ下へおりる。やけに嫌らしい手つきで太股を摩られて、本格的に鳥肌が立った。 犬のように首筋を舐められ、時折柔らかく噛まれる。汗もかいていて汚いのに、何がしたいのだろう。喉が引き攣ったような声をいくら上げても、男はやめるつもりなどないらしい。べろり。しょっぱいなという呟きに泣きそうになった。 「ねぇ」 「ひっ…。耳、やめ……」 「こういうことされるの、初めてですか」 何かを探るように耳の中をなぶられ、ぞわぞわと限りなく悪寒に近いものが背中を駆ける。やめろ、なんて言う間もなく顎先まで舌が這ってきた。れろ、と生温い感覚が、きもちわるい。 無遠慮な右手は足の下に潜り込んで、先程から俺の尻にやらしく触れている。揉み込むような指の動きに、知らず声が零れた。 こいつは、俺が男だということを忘れちゃいないだろうか。女性だったらしていいなんて言わないしそんなことがあったら許さないが、男だからしてもいいなんて話でもないのだ。今すぐにでも正気に戻って、俺を殴る何なりすればいいのに。 頭を過ぎった微かな願望も届きやしない。温かい濡れた感触が喉を過ぎ、薄い筋肉をなぞり、胸を捕らえた。 「ぅ、あ…!」 「とても感度がよろしいようですが、ほら、どうなんです?」 「こんなこ、と…、あるわけない……っ」 「へぇ? 元からこうなんですか。それはそれは」 「いぃっ!?」 がり、なんて痛々しい音をたてて歯を立てられたところは、普段以上に赤く染まっていた。細い指先は、色付き硬度を増したその箇所をいつまでもなぶる。爪を立て、こね回し、潰れんばかりに引っ張っては優しく舌を這わせ。 痛い、はずなのに。 神経でもいかれてしまったのだろうか、俺の脳はそれを快感と受け取った。背中を走るのは悪寒ではなくなり、腰には淡い電流が流れる。 そうして、じわじわと体を犯すむず痒い感覚は痺れを残し、俺を引きずり込んでゆくのだ。もう戻れないところまで、なんて。 「貴方は罪を犯したんですよ。分かっていますか」 「や、はぁ…」 「気持ち良くなるなんて、許されるわけありませんよね?」 ああ、その笑顔が怖い。 整った顔立ちは暗く歪んだ笑顔に支配され、俺の中の恐怖を沸き立たせる。滲んだ視界の向こう側には彼しかいない。 逃げられない。腕も足も、きっと体の全てがこの男に捕われる。俺に枷を嵌めたその口でその掌で、苦痛と絶望は絶え間無く運ばれるだろう。 逃げられないのだ。 「贖罪、させてあげましょう」 断罪は続く。今更隠れることなどできない俺は、こいつに許しを請い身を捧げざるを得ない。 ずるい人だ、本当に。俺にはその手を振り払うことなど不可能だというのに。 小さく落とされた唇は、やはり冷たかった。 END. |