かわいいあの子を汚したい

犯罪くさい古ショタキョン





僕には日課がある。
学校が終わったら誰に声をかけられても振り向くことなく外へ出る。部活もしていないから用事ができることもない。友達の誘いも全て断ってまだ誰もいない校庭を早足で出て行く僕を、皆はどう思っているのだろう。怪しいバイトをしているという噂を流されたことがあったが、それもいつの間にか絶ち消えた。まあ学校にそれほど執着心のない僕には関係のないことである。
ほとんど走りながら目的の場所へ向かえば、どうにか間に合ったようで小さく息を吐いた。僕が目指していたのは、ある幼稚園の正面にあるコンビニである。この幼稚園は昔僕が通っていたところであるが、過去にお世話になった先生はもう残っていない。見付かったときに身元がばれることもないから助かっている。
呼吸の乱れを軽く直してコンビニに入る。やる気のなさそうな店員の声はスルーして、雑誌コーナーへ素早く向かった。多くのコンビニと同じようにこのコンビニも駐車場の方に雑誌コーナーがあり、ガラスの向こうには外の景色がはっきり見える。つまり、幼稚園の様子が。適当に手にした週刊誌を目元へ持ち上げ、ちらりと視線を外へと向ける。
僕のお気に入りの子は、いつも砂場で遊んでいる。あまりアウトドア派ではないようだが、ショートカットの大人しそうな女の子と話している姿はとても楽しげだ。ぺたぺたと山を作ってはトンネルを掘り、きゃっきゃと笑って城にしていく。その眩しいほどの笑顔に、整えたはずの僕の呼吸はまたも荒くなっていく。

「かわいい……」

ぼそりと思わず零れてしまった声は誰にも聞こえない。元から利用者の少ないコンビニだ、あくびしながら漫画を読む店員もこちらを見ることはない。
可愛い可愛い男の子は何かを笑いながら訴えて、女の子がそれに少しだけ頷く。紅葉みたいな小さい手を目一杯横へ広げ、零れ落ちそうな大きな瞳で思い切り笑い、白い歯を見せつけて声を上げる。それを見ながらほわほわと穏やかな気持ちになると同時に、酷く暴力的な感情も沸き上がってきてしまう。
きっとその手は細くて柔らかくて、僕が力いっぱい掴んだら折れてしまうだろう。頼りないがゆえに、しがみつかれたら堪らないだろうなとも思う。透き通った瞳は、恐怖に見開かれたらこれ以上どこまで大きくなるのか。涙が零れていく様も見てみたい、嘗めたらきっとおいしいに違いないな。こんな遠くじゃわからないから、声もたくさん聞いてみたい。叫び声、泣き声、懇願、甘い悲鳴も聞けるだろうか。いやけれど、やはり笑い声を聞いてみたい気もする。愛の言葉だって、聞けるもんならいくらだって聞きたい。
体の奥から熱が沸いてくる。想像するだけで頭がどうかなってしまいそうだ。いっそ外を出歩けなくなるほどに、興奮していく。

「はあ……」

異常だと人は言うだろう。一回りも年の離れた、しかもまだ言葉もはっきりしないような子供に欲情しているなんて。よくて変態呼ばわり、悪ければ犯罪者扱いもされよう。いや、この行動さえすでに犯罪か。それでも僕は、あの男の子のことを、彼のことを愛していた。それはもう襲ってやりたいくらいに。
しばらくすると母親が迎えに来たのか、彼は今までで一番の笑顔で幼稚園から出て来た。黄色いかばんを肩にかけ、女の子に挨拶をすることも忘れない。まだまだ若い女性に手を引かれる彼を見詰めながら、僕は雑誌を置く。そのまま迷惑そうな店員の声をバックにコンビニを出れば、微かに聞こえる可愛い声。

「今日はさ、ゆきといっぱい遊んだんだ! いっしょにおえかきして、先生にほめられたんだよ」
「あらそうなの、よかったわねぇ。今度お母さんにも見せてね、キョン君」
「うん!」

徐々に小さくなる二つの背中を見送り、どきどきと落ち着きを知らない胸を抑える。初めて声を聞いた。子供特有の高い声はテンションに伴って大きく、その無邪気さが可愛い。そして、名前。

「キョン、君」

口に出してみれば、驚くほどに彼にぴったりな気がした。あだ名だとは思うが、親にも呼ばれるほどだからかなり浸透したものなのだろう。可愛いな。キョン君だって。キョン君か。知らず浮かんでいた笑顔を隠すように俯き、帰路へつく。燻り始めた体に焦らされはしたが、とても清々しい気持ちだ。ただ脳内は、激しくどろどろしている。
声を聞いた。名前を知った。じゃあ家は? 趣味は? 何が好きで何が嫌いなんだろう。どこを触ると喜ぶ? 僕のことをどう思うだろうか。
ああ、だめだ。止まらない。

「キョン君、ね」

差し当たって明日は、彼の家を知ることにしよう。こっそり後ろをついて行って、ばれないように。見付からないように。幼稚園だけじゃなくて家も外から見詰めることにして、ああどこからなら彼の姿が見えるかな。お菓子を家の前に置いてプレゼントするのもいいかもしれない。そうしたら次は電話番号を探って、彼が一人のときに電話するんだ。今度は何がほしいのかって。自分の家から電話しないと、興奮するだろうから危ないかな。
いつか彼を手に入れる日が楽しみだと、僕は薄く笑った。薄暗い空が、どこまでも広がっていた。





END.

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