秋♀由/学パロ

ノリと勢いだけで書いた秋由子ちゃん学園ラブコメ的な何か。女体化です誰おまです





遠近秋良は都市伝説の類に夢を持っちゃいなかった。食パンを咥えて走っても奇異の目を向けられるだけだし、転校生がイケメンや美少女でありしかも自分の隣の席が偶然にもあいていて担任に世話をもうしつけられるなんてことはまずありえない。
漫画は漫画、アニメはアニメ。妄想は妄想であり都市伝説は都市伝説だ。そもそも娯楽類をあまり知らずに生きてきた秋良なので、漫画にもアニメにも都市伝説にもあまり詳しくはない。
ただそんな彼も高校生であり、妄想の一つや二つ繰り広げることだってある。多くは友人関連だが、時折、恋愛に関した空想を広げることだってある。幼馴染に毎日起こされるだとか(ちなみに秋良に幼馴染の女子はいない)、転校生が幼い頃結婚の約束をした相手だったらとか(ちなみに以下略)、担任が昔近所に住んでいたお姉さんだったらだとか(以下略)。
もしくは、ラブレターをもらったり、だとか。
靴箱に手紙。思春期には誰しもが一度は夢見た組み合わせではないだろうか。クラスも違う名前も知らないような異性から、あるいは名前の記入もなくただ用件のみの白い封筒。ハートのシールが貼ってあったりなんかして、中には挨拶と簡潔な言葉だけ綴られている。丸っこい字もかわいらしいが綺麗な字ならなおよい。そして便箋の真ん中、黒のボールペンで控えめにこう書いてあるのだ。

『話があります。放課後、教室に残っていてくれませんか』

その日は、不良と恐れられる遠近が靴箱の前でたむろしていると、何人もの生徒が職員室に駆け込むこととなった。



別に期待しているわけではない。朝から何度もつぶやいている魔法の呪文を再度飲み込んで、秋良は扉に手をかけた。
一日中授業に身が入らなかったことを一番理解しているのは自分だが、認めてしまうと何か負けな気がしている。手紙なんてどうでもいい。ただ偶然、教室に忘れ物をしてしまったから戻ってきたのだ。そう誰に向けるでもなく言い訳をして、クラスメイトがいなくなるまで自習室で時間をつぶした。もちろん、勉強などまったく手がつかなかった。
告白。その言葉が頭の中をぐるぐる廻っている。字の感じからしてまず間違いなく女子だろうし、秋良に悪戯をしかけるような人間などこの学校にはいない。可能性の話をするなら、最も高いのは告白だろう。考えて、顔が赤くなりそうになるのに舌打ちをした。
秋良には友だちが少ない。唯一秋良のことを特別扱いすることなく親しくしてくれる椿灯吾くらいだろうか、胸を張って友人だと言えるのは。灯吾は、秋良がこのあたりの大地主の息子であることも、不良のような風体であることも、少々奇妙な言動をすることも、面倒そうにしながらも受け入れてくれる。一番の友人だ。とても大切で、彼に危険が及ばないように少し突っ走りすぎてしまうことはあるけれど、守りたい気持ちに嘘偽りなどないと言い切れる。しかしその「突っ走り」がどうも常人には理解されないようで、秋良の真摯な友情は灯吾以外に届くことなく、携帯電話のアドレス帳は一向に増えやしない。
そんな状態なので、恋人など言わずもがなである。少しいいなと思った子でもすでに恋人がいたり、なぜか一方的に恐れられていたりする。
もう、高校に入学して一年も経つのだ。恋人がほしいとはいわない、せめて少しくらい甘酸っぱい経験をすることくらい、許されてもいいのではないだろうか。
手にぐっと力が入る。この扉の向こうに、青春が待っているかもしれない。高鳴る胸に気付かないふりをして、がらりと扉を開く。

「しまった筆箱を忘れた!」

見え見えの演技をしながら、視線は教室の中を探る。誰もいない、ただ一人、窓の外を眺める人影を除いては。

「あ、来てくれたんだ」

人がずんずんと入ってきたことに驚く様子も見せず、少女はにこりと笑った。予感が的中したかと心中でガッツポーズを決める余裕もなく、目にはいった光景に秋良は呼吸を止める。
すでに日は沈みかけており、差し込む光はじっとりとした赤みを帯びている。鮮やかな朱色の中たたずむ少女は、今にも消えそうなくらい儚く美しい。角度によっては銀色に見える髪が、ふわふわと肩までを覆う。見慣れぬ制服はこの寒さの中だというのに夏服で、半袖から覗く腕は心もとなく感じるほどに細く柔く見える。健やかなふくらみの下、短いスカートから伸びる足もやはり肉付きは薄い。けれどその頼りない肢体も彼女の雰囲気に合っているようだと、名前すら知らないくせに頭にぼんやりと浮かんだ。

「とおちかあきよし、だっけ? 急に呼び出してごめんね」

にっこりと赤い唇が弧を描く。魅惑的な表情だ。ただ、稲穂を思わせる瞳はぎらぎらとこちらをにらんでいるようだと思った。告白? いやそんな、爽やかな雰囲気では決してない。まるで果たし合いのような、一触即発の危うさを孕んでいる。
ごくりと唾液を嚥下し、秋良も瞳に剣呑さを含ませた。少女の笑みがより深まる。

「……うちの学校の生徒じゃないな。どうやって侵入した」
「制服だけで判断しないでよ。転校したばかりだけど、一応ここの生徒なんだ。間に合わないらしくて、当分はこの格好だけど」
「上着くらい着ろ。こっちが寒々しい」
「用件が済んだらすぐ帰らせてあげるから、少しくらい我慢してよ」

少女は窓から離れ秋良の正面に立つ。近づけばその身体がより頼りなく見える。いたずらに力をかけたらすぐにでもぽきりといってしまいそうだ。ぶしつけな視線は受け入れているが、喧嘩を買うわけにはいかないなと眉間に皺を寄せつつ考える。
数秒、沈黙が流れる。暴言でもはかれるだろうかと身構えていたのだが一向にその気配はない。じっと秋良の眼を見つめる少女は、はじめこそ警戒心のようなものを抱いていたようだが、ふっと力を抜いて微笑んだ。先ほどまでの隙のない笑みとは違う、穏やかな微笑み。
ゆらりと首が傾げられ、髪が揺れた。

「ウーン」
「……なんだ」
「思ってたのと違うなあって。ストーカーみたいなものだって聞いてたけど、それよりもうちょっとだけましみたいだ。これならまあ大丈夫かな」
「だ、誰が誰のストーカーだ! そもそもお前は何者だ名前を名乗れっ!」

意図せず口ごもってしまい恥ずかしさに頬が熱くなる。何を狼狽しているんだ。自分を戒めるようにぐっと眉を跳ねあげる。
少女はきょとんとしたのち、おかしそうに声を上げて笑った。

「とうごから聞いてないの? オレは由。つばきゆえ。とうごの双子の妹だよ」

遠近秋良は都市伝説は信じていないが、空想のひとつくらいはする。目の前であどけなく笑う少女の言葉に、いつだったか姉が物語った少女漫画のストーリーが頭をよぎった。
再び赤くなりそうな頬を抑え、秋良は携帯を手に取った。おかしなことを考える前に、彼女を引き取ってもらわなければ。



「由! お前、いないと思ったらこんなところに」
「あ、とうご」
「あ、じゃない。何してんだ、灯奈が心配してるだろ。帰るぞ」
「だってとうごが変なのに付け回されてるって黒狐が言ってたから、チェックしとこうと思って……」
「……お前に守られなくても大丈夫だっての。ほら、行くぞ」
「ちょ、待て椿。帰るのか? 何の説明もなしか?」
「ああ、あっきー悪かったな。助かった。こいつは俺の妹で由。詳しい話は明日するからじゃあな」
「じゃあねあきよし! また明日ー」
「は、お、おい!」



2013/09/20

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