まだここにいる たまに不安になる。どれだけ気持ちを伝えても、本当に理解してくれているのか。鈍感で可愛くて誰よりも大切だから、もうどうしようもなく不安になる。 「竜ヶ峰」 「なんですか?」 「好きだ、ぞ」 「……はい」 ほらまた、そうやって曖昧に笑う。いっそのこと嫌そうな顔でもしてくれればいい。そうしたらどうしようもないんだと諦めることもできるのに。拒絶も受容もせず、優しいだけの笑顔で俺の腕に収まる。それが切ない。 閉じ込めることも怖くてできないから、独占など夢のまた夢だ。願うのは彼の幸福であり、ならば束縛するのはいただけない。猫を飼うならば、付けるのは紐のない首輪。自由を与えなければ愛しいものは愛しい姿のままでいることはできないのだと、俺は知っているのだから。壊さないように大切にして、守っていければそれでいい。ああでも本当に、守れているのだろうか。 小さな体を抱きしめる。傷付けるだけだったこの手が誰かを慈しめるだなんて、知ることはなかった。彼だけを包み込みたいと体が訴える。それが嬉しい。けれど少し寂しい。 「好きだ、竜ヶ峰」 「どうしたんですか、静雄さん。泣いてますか」 「んなわけないだろ、馬鹿」 「そうですよね、」 あなたは強いから。 そう、俺は強いから、この疎ましいばかりの力でもって彼を守りたい。適度な強さで捕まえて、でも彼が望むのならばすぐにでも離して。川に笹船を浮かべるように慎重に慎重に、俺は彼の側で生きていたい。 伝わっているだろうか、届いているだろうか。この不安定で朧げな感情。お前が余所を見る度に痛む胸のことを、お前が逃げないでいてくれるだけで零れそうになる涙のことを。知っているだろうか、気付いているだろうか。愛した分だけ愛されたならばと思っていることを、理解している、だろうか。 「好きなんだよ」 もう、もどかしさで辛いんだ。 伝わってないなら伝えちまえと、少し無理矢理に唇を奪い取る。見開かれた瞳は驚きに縁取られており、ああ今までの言葉は無意味だったと悲しくなった。けれど彼は壊れずに逃げずに、まだここにいる。それだけは確かだったから、俺はとりあえずは満足だった。 END. 2010/03/03 |