彼は、俺より小さい。身長に見合った長さの足でちょこちょこ後を追い掛けてくる。つむじの見える頭は綺麗な形をしていて、皆が撫でたがるのがよく分かる。臨也さん臨也さんってついてくるから、まるでひよこみたいだ。
制服はブレザー。きっちり着ている分優等生に見える。実際素行はかなりいいらしい。成績は中の上で、そのくせ成績表は上の下くらい、って、分かりにくいな。
へらって笑う。眉毛を下げて、媚びを売るような笑い方。あまり好きじゃない。道端に転がる猫を見掛けたときのほわほわした笑顔が気に入っている。どこから来たのーなんて、子供みたいだった。汚れた膝を見てまたへらって笑っていた気がする。
指、というか、全体的に細い。どころか、薄い。ぺらぺらしてる。触ったら潰れてしまいそう。いつもそっと触る。そうすると、少し怒って頬を抓られる。また子供扱いするーって。そんなつもりないんだけど。
俺が怪我をするとすごく怒る。下から見上げながら、唇を尖らせて。仕方ないんだと笑っても納得しないみたいで、度々罰をもらう。たいしたことはないけれど、不思議な気持ちになる。何を考えているのだろう、彼は。よく分からない。
誰にでも優しくて、たまにきつい。あの幼なじみにするように遠慮なく接してほしいなと思ったりする。言ったことはないけど。でも正座させて説教するのは俺が初めてらしい。俺だけ。ふーん、ならいいか。





彼は僕を見下ろす。膝を曲げて視線を合わせるなんてことしなくて、歩くのも速い。僕なんていないみたいにひょこひょこ進んで行く。でもふと立ち止まって帝人君って振り返ってくれたり。嬉しい。
真っ黒い上着はお気に入りらしい。いつも着ている。前着せてもらったときはシトラスの香りがした。臨也さんの匂いがしますって言ったら盛大に笑われた。失礼な人だ。
嫌味な顔しかしない。僕が猫と遊ぶのを馬鹿にしたような笑顔で見ていた。飼うのって、そんなことできないって知ってるくせに。あの目で見られると少し萎縮してしまう。悔しいけど、とりあえず笑っておく。
なんかこう、ふよふよしてる。あっちに行ったりこっちに行ったり、安定しない。僕のところにいつもいるわけじゃない。気まぐれ。勝手。傍若無人。あと実は、寂しがり。
時折怪我をする。無駄に無理したりする。どうってことないって笑うけど、そんなはずない。僕には怪我させないようにそうっと触るくせに、なかなか触らせてくれない。手当てをしたいだけなのに。我が儘ばかりだから、パソコン禁止。
わけの分からないところで怒ったりする。変にべたべたしてきたり、何を考えているのか分からない。僕の見ていないところですごく幸せそうにする。あったかい顔をする。だから今はあまり、気にしていない。





END.

2010/04/10


BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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