壊した矜持と明かりの向こう 壊れる世界と君の部屋のシズちゃん視点です。 折原臨也が竜ヶ峰帝人に執着していることは知っていた。死ねばいいと思っているほど大嫌いな奴と、誰にも渡したくないほど大好きな人。そのままでいさせるわけにはいかなかった。恋人である帝人は何も言わない。けれど臨也が彼の生活に付き纏っているのは明白で、静雄は少し焦り出していた。あの臨也が帝人に傷をつけるようなことをしないと言い切れるか。いつか必ず暴走して、帝人を悲しませる。そんなこと許せるはずがない。 ならばどうするか。臨也は知らないのだろう、静雄と帝人が好き合っていることを。もし知っていたら臨也は何かアクションを起こしているはずだ。だが今のところその様子はない。今まで誰にも明かしたことはないし、会うときは静雄の家で見付からないように会っていたのだから無理もないだろう。 それを、ばらしてやればいいのだ。こいつは俺のものだから手を出すな。多少の危険を背負ってもきっと効果的だろう。臨也が帝人に恋人がいるということ程度で身を引くとは思えないが、宣戦布告には丁度いい。 「しずお、さん」 どこかうっとりとした表情でこちらを見上げる帝人に笑顔を向けてやる。安心したように背中に手を回した彼はかわいらしい。目を閉じて身を委ねる姿に、静雄は一つキスを落とした。 帝人の家へ来るのは初めてだった。彼の友人などに出会うかもしれないことを考慮してのことだったが、帝人は静雄に来てほしかったらしい。自分が訪問するばかりだったことが不満だったのだろうか。訪ねる旨を伝えたときの笑顔には安堵と喜びが混ざっていた。 もちろん今回帝人の家を訪れたのにはわけがある。 (あそこか……) 部屋の電灯。角度によって少し暗くなることに、静雄はそこにカメラがあるのだろうと考える。臨也のことだ、帝人の家にカメラや盗聴器をつけているだろうと思っていた。予想通りである。しかし予想していたからといって頭にこないわけではなく、ぎりりと奥歯を噛み締める。 帝人の生活を盗み見ていたという犯罪じみた行為に苛立ったのもあるが、それ以上に嫉妬心が胸を占めていた。自分の知らない、自らのテリトリー内での帝人。それを臨也が見てきたという事実。吐き気がした。 「……あいつ、ぶっ殺してやる」 「え、今何て?」 「ああ、何でもない。気にするな」 「ぅ、ん……」 荒い呼吸の零れる唇に自分のそれを落とし、純粋な彼に聞かせるわけにはいかない言葉をごまかす。帝人の表情はすぐに蕩けるようなものに変わった。それを見て静雄は心の中で決意を叫ぶ。あいつには渡さない、壊させない。絶対に。 ちかちかと点滅する電灯を見上げ、静雄はにやりと笑ってやった。こちらを見ているだろう情報屋に見せ付けるように。どうだ羨ましいだろうという気持ちを込めて。どこかで誰かが舌打ちをした音が聞こえた気がして、ひどく愉快な気分だった。 END. 2010/03/22 |