頂き物

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 朝は良い気分で、もうそんなの随分と経験していない。起きれば心地好い微睡みから強制的に覚醒させられ、憂鬱に支配されるだけ。もう何年この状態だろうか。

「おはようございます、お嬢様。朝食は出来ておりますよ」
 私の世話を焼くお手伝いさん。もっとも、私が成長する毎に変わっているから特に感じることはない。

 一応、感謝はしているけれどね。

「わかりました」
「あと、旦那様もお待ちです」
「……」

 暗に“早くしろ”と言うことだろう。そのことも含めて私は眉間に皺を寄せた。

“ある日”から、あのくそ親父は私と朝食を取るようになった。何を勘違いしているのか。別に寂しくなんか無い。そんなことじゃ無かった。

 決してそんなことじゃ。

“ある日”────あの日、私たちは学校を爆破した。

 私と、彼。



「おはようございます」
「あぁ、おはよう」

 結果として、火の割りにチャチいあの爆発は誰にも咎められなかった。彼は、まぁ、わかる。転校生であったし、旧校舎の爆破なんて繋がりようが無い。実際には彼が首謀者だけど。けれど私はあの旧校舎を使っていたのだ。しかも爆発したのは私が主に蔓延っていた資料室。絶対、私は最重要人物だったろうに。

「……」

 目の前の人が、手を回したんだろうか。他に無いと思うけれど。私は苛付く感情を紅茶と目玉焼きといっしょに飲み下した。すると、見計らったように目の前の人、くそ親父が私に声を掛けて来た。

 私をひたと見据えて。

「京子」
「何でしょうか」
「……今日も、きちんと教室に顔を出すように」
「……っ、ごちそうさまでした!」

 抑え付けてた衝動の発露か多少乱暴に席を立つとお手伝いさんが持っていた弁当や誰かの手作りのケーキ、紅茶の入った水筒を引ったくるみたいに受け取って学校へ行くべく玄関に向かった。背後で、溜め息が聞こえた気がした。

 とぼとぼ通学路を歩く。この時間は早朝だけあって人気は少ない。私はほっと息を付いた。ようやく今日最初の呼吸をしたと思った。

 安堵したのにどうして浮かぶのはあのくそ親父なんだろう。

 悔しい、と思っているからかな。

 でも、何が悔しいんだろう?

 あの爆破を未だに無言に殺されていることだろうか。あれは、私には狼煙だったから。そう。

「……」

 狼煙だった。宣戦布告だった。



「おはよー」
「……、おはよう」
 私は言葉に詰まってしまった。まさか、こんなに早く人がいるなんて思わなかったのだ。……いや。
 最近は、ずっとこんな感じだった。行けば、いつも彼らがいる。

 彼と。

「おはよー!」
「おーっす」
「……おはよう、ございます」

 クラスメートの男女二人。

 彼が以前「別に誘ってる訳じゃないんだけど、何かいるんだよ」と困ったように私にぼやいたことが在る。私は彼の困った様が面白いので彼女たちを許容してしまったが。

「あー、まだ敬語! そろそろ京子ちゃん私もタメ口にしてよぉ!」

 うーん。確かにちょっと鬱陶しいかも。

「やめろって。馴染みの無い人間にいきなり馴れ馴れしくしろって無茶振りするなよ。酷いぞお前」
「あー! 何それ! 私は仲良くしたいんです! 見てよこの深窓のお嬢様! あー! 可愛い!」

 彼女は私に抱き着くなりぐりぐりと頬ずりして来る……正直うざったい。

「おら、やめろって」
「大丈夫か」
「あー! 横暴! 横暴よ!」
 男子二人で結託して私を助け出してくれる。遠くでは引き剥がされた彼女が不満げに喚き散らしていた。

「……」

 終始困り顔の彼。げんなりと彼女を見返す男子。がなる彼女。

「……ふ、」
 何だかひどく滑稽だなと思ってしまった。だけど。

「……笑った」
「笑った、久々見た」
「笑ったよねっ? 今笑ったよねっ?」

「ふふふっ」

 一番滑稽なのはこの光景の一部になっている自分だった。とてもおかしい。

 あの資料室にいたときは打倒くそ親父でいた。色眼鏡を外さないヤツらが大嫌いだった。

 今、私は何をしているんだろう。勿論、打倒くそ親父に変わりはないけれど。色眼鏡のヤツらもまだ全然嫌いだけれども。

「ふふふっふ……」
「久々って、お前見たことあんの」
「一応ちょっとだけ」
「何それ! ま、良いかぁ! あー、可愛い!」
 取り敢えずこう言う面白いものが見られるなら教室も良いかもしれない。それに。

 私の中で、あの日上げたのは狼煙に変わりはなかった。

 見てろよくそ親父。
 今だけはあんたの願い通り教室にいてあげる。共犯たる彼の懇願だから。

「教室に来てほしい、いてほしいんだ」

 今だけだ。首洗って待ってろ。






   【Fin.】


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