05





「よし、着いた!」


スパナの腕を引っ張る名前の目線の先には何の変哲もない公園。


「どこかに行くんじゃなかったのか?」

「え?だから来たじゃん」


変なスパナ、そう言いながら足を進めふたり揃ってベンチに座る。


「さ、食べよ〜」


ここに来る途中で買ったたこ焼きを膝の上に乗せ、名前は心底幸せそうに笑った。


「いただきまーす」


まだ出来立てのそれを一気に口へ放り込んだ名前。当然中は絶対に熱いわけで。


「ぁっつい!!」


予想通り口を手で押さえハフハフと熱を逃がしている。
スパナはそんな名前の様子をじっと見ているだけ。やっとの事で食べ終えた名前はまだ少し熱そうにしながらきょとんとスパナを見つめた。


「…どしたの?」

「いや、寄り道するなんて言ってたからもっと人のいるとこに行くのかと思った」

「あーさっきそれであんなこと聞いたんだね〜。スパナいっつも根詰めて仕事してるから人の多い所行ったら余計に疲れちゃうじゃない」


名前が公園を選んだのは自分のためだと分かり、心の中が暖かくなる。思わず無言になるスパナに名前は笑った。


「ま、そんな深く考えないでとりあえずこれ食べてゆっくりしよ?」


はい、と差し出されたたこ焼きを素直に口に含んだ。すると何故か名前は慌て出す。


「ちょっ…誰もそんなことしろなんて言ってない!」

「どういうこと?」

「っだから、普通に自分で食べてねって事だったの!!」


たこ焼きを爪楊枝に刺して目の前に持ってこられたから反射的に手よりも口が先に動いてしまった。名前からしたら『あーん』をしたことと同じに感じられ恥ずかしくなったのだろう。真っ赤になる彼女をよそにスパナは少し呆れ顔だ。


「あんた、変なとこで女らしくなるな」

「なっ…!なんでよ…!?」

「いつもウチにじゃれついてくるのにこんなことくらいで赤くなるから」

「だっだってそれはその…!!」

「また赤くなった」

「……っ〜!」


恥ずかしさのあまりうつ向いてしまった名前。そんな彼女にからかってごめんという意を込めて頬に口付ける。すると名前の耳までもがみるみるうちに染まっていく。


「…っバカ」


極小さな声でそう呟いた後自らの手で顔を覆って、それから一言も喋らない。


「……………。」

「……名前」

「……………。」

「……………。」





当分顔を上げそうにない名前の隣で、スパナはたこ焼きを1つ頬張ったのだった───。








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